現在、新潟アルビレックス・ベースボール・クラブは5勝18敗1分となかなか勝ち星が伸びず、チームとしては厳しい状況にあります。しかし、選手一人ひとりは技術的にも精神的にもレベルアップしていますので、チーム内には野球への情熱・意欲がみなぎっています。
 もちろん勝負の世界ですから、勝敗の数字にこだわることは大事です。しかし今、私が選手に求めているのはチームとしての勝ち星を増やすことよりも、自分たち個人の技術を磨くこと。
 彼らはまだまだプロとしては未熟です。そして、だからこそ伸びしろが十分にある。目先の結果にとらわれず、基本をしっかりと身につけ、少しずつでいいから上達していってほしいのです。それが、やがてチームとしての力となるのだと考えています。

 そのためには、選手自らが「うまくなりたい」という強い気持ちが必要です。なぜなら、指導者がいくら躍起になったところで、選手自身にやる気がなければ何の意味もありません。うまくなるかどうかは全て本人次第なのです。

 実は、1カ月程前から「練習時間が短い」「もっと練習をしたい」という声が選手側からあがるようになってきました。だからといって、私はチームとしての練習時間を延ばすことは考えませんでした。不足と感じるならば、あとは自分で補うしかないのです。
 すると、全体練習が終わってからも自主トレーニングに励む姿をよく見かけるようになってきたのです。もちろん、私は何も言っていません。全て、選手たちの自主性によるものです。この自主性こそ、私が選手たちに一番に求めていたものでした。

 この北信越BCリーグでは、技術的なレベルアップだけでなく、人間性を養うということも大事な要素です。言われたことだけをやるような“指示待ち人間”ではなく、自ら考え、行動できる人間になってほしいと願っています。今、選手たちは間違いなくプロ野球選手として、人間として成長していると私は感じています。

 失敗してこそ得られる成功

 野球というスポーツは、ちょっと練習したからといって、すぐに上手くなるものではありません。私自身、巨人時代には約5年間にわたる2軍生活を経験していますので、上達には時間がかかるということが痛いほどわかっています。ですから、勝敗にこだわって選手を潰してしまわないよう、長い目で見るように心がけています。

 とはいえ、選手たちの頑張りはまだ「努力」にまでは到達していません。「努力」とは「成功」してこそ言える言葉です。「失敗は成功のもと」とはよく言われますが、「成功」は「失敗」を幾重にも積み上げてこそのもの。選手たちは今、まさに「成功」に向けて「失敗」を積み上げている最中なのです。

 なかなか結果を得られず、選手たちはもがき苦しんでいることでしょう。しかし、こうした下積みが、やがて大きな花を咲かせてくれることを信じ、これからもサポート役として選手たちを支えていきたいと思っています。


後藤孝志 (ごとう・こうじ)プロフィール>:新潟アルビレックスBC監督
1969年5月14日、愛知県出身。1987年、中京高校3年の夏に甲子園に出場し、8強入りを果たす。その年のドラフトで巨人に2位で指名され、翌年に入団。主に代打の切り札として活躍。02年には日本シリーズで決勝の2点タイムリーを放ち、チームの2年ぶりの日本一に大きく貢献した。ガッツあふれるプレーで多くのファンを魅了したが、05年に現役を引退。今年はニューヨーク・ヤンキース、その傘下の1Aタンパヤンキースにコーチ留学をし、主にメンタルトレーニングを学ぶ。07年より新潟アルビレックスBCの監督に就任した。




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