先月「暑さは我慢するもの?」というタイトルで、子どもたちの暑さへの対応を書かせていただいた。それから増々暑くなり、子どもはもちろん、大人の活動の仕方も大幅な発想転換を迫られている。スポーツや働き方、生活すべてが過去の経験だけに頼っていては、取り返しのつかないトラブルになりかねない。

 

 関係者、指導者はもちろん、プレイヤー自身がそんな状況とリスクを理解し、正しい行動をとることが必要ではあるが、その現場に入ると、当事者は声を上げにくかったりする。だからこそ、その環境を管理する立場にあるものが、ルールなどを設定していくことが大切になってくる。

 

 一つの事例が国交省にあった。建設業の働き方改革の一環として、直轄土木工事の工期設定指針を今年4月1日から改定。熱中症を防ぐために、作業を止める日として猛暑日を「天候不良などによる作業不能日」に加えたのだ。つまり、暑さ指数が一定以上の日は、作業に適してない雪や台風などと同様の天候不可の日として、工期延長をできるというもの。もちろんこれをどこまで履行するのかは業者次第だが、発注する方がこうしたルールを打ち出すことで、業者の認識や意識に確実に影響してくるだろう。

 

 スポーツの現場では、7月よりJリーグがWBGT値によって行っていた熱中対策の「飲水タイム」を、WBGT値に関わらず原則実施となった。高校野球では夏の全国大会における「クーリングタイム」の設定とベンチ入り人数の増加が今年から導入。クーリングタイムは5回終了後に選手が10分間の休息をとり、ベンチ裏に設けられた冷房が効いたスペースで保冷剤が入った「アイスベスト」を着たり、首を冷やす「ネッククーラー」を使うなどして、体の冷却や水分補給にあてることができるというもの。さらに控え選手の役割が増えるとして、ベンチ入り選手の数が2人増えて20人に変更。選手への負担軽減を目指している。

 

 アスリートは現場に入ると、勝負にこだわるがあまりに、自らの健康に対する配慮ができなかったり、二の次となってしまうことがある。結果として熱中症や脱水症状を引き起こすケースも。だからこそ対策を明文化することは大切で評価できるだろう。ただ、高校野球は多少の配慮があるとはいえ、夏の日中という厳しいコンディション下で行っているのだから、クーリングタイムのタイミングにこだわらず、ベンチに戻っている時間帯はどんどんクーリングをしていくべきだと思うが。

 

 ウエットスーツは暑い

 

 真夏に行うスポーツと言えば、私の専門であるトライアスロンも、ど真ん中だ。

 野外でのスイムが種目のひとつに入っている関係上、国内においては基本的に暑い気候で行うことが多い。ちなみに欧州などに行くと夏が短く、意外に寒さの中で行われるケースも少なくない。寒さに弱いアジア系の選手は工夫が求められる!?

 

 そんな夏のスポーツではあるのだが、日本で開催される一般参加の大会の多くはスイム時に「ウエットスーツ着用義務」となっていることが多い。世界的にみると、水温によって「着用義務」「任意」「着用禁止」に分かれているのが普通で、水温に関係なく義務付けられているのは、日本特有である。これは歴史的に、「ウエットスーツを着ていると、スイム中にトラブルがあっても沈みづらい」という安全管理の観点から設定されたもので、国内関係者の間では当然とされてきた。一方で、これが参加者に「泳力不足でもウエットがあるから大丈夫」という考えを及ぼし、それがリスクになっているのではとの指摘もある。

 

 ところが、このところの暑さである。ウエットスーツは本来保温のために作られているので、着ていると相当暑い。スイム中は水の中にいるから分かりにくいが、実はかなりの発汗をしていて、水温が高ければなおさらだ。そこにウエットを着用した場合、相当過酷なコンディションで泳いでいると言っていいだろう。

 

 私も暑くて泳ぎながら首元からウエットの中に水を入れたり、通水性のいいウエットを考えたりしたものだ。ましてやスムーズにスタートさせるために、スタート前に陸地で整列をさせて待たせたりする大会も多い。暑い中でウエットを着て外にいるなんて熱中症を促進しているとしか思えない。スタート前に大量に発汗し、泳いで発汗し、そこからバイク、ランとすると、もはや競技というよりサバイバルレースになっていないか……。

 

 確かにウエットスーツを着ると浮力は増す。しかし、暑い季節はそれ以上にリスクも増すということを認識しなければならない。ただ、ルールである限り参加者は回避することはできないのが実情。ただ最近は、ウエット着用のルールを水温によって変更する大会も少しずつ出てきた。このように、既成概念にとらわれるだけでなく、変化してきた気候に対応していくことが求められるだろう。

 

 間違いなく地球の気候は変化し、過去の状況とは異なっている。その原因への対応はともかく、まずは働き方やスポーツの現場も変化に対応していかなければ、そのものの継続性も失われてしまう。

 活動を続けるために、全てのやり方を見直すときなのかもしれない。

 

 

白戸太朗(しらと・たろう)プロフィール

17shiratoPF スポーツナビゲーター&プロトライアスリート。日本人として最初にトライアスロンワールドカップを転戦し、その後はアイアンマン(ロングディスタンス)へ転向、息の長い活動を続ける。近年はアドベンチャーレースへも積極的に参加、世界中を転戦していた。スカイパーフェクTV(J Sports)のレギュラーキャスターをつとめるなど、スポーツを多角的に説くナビゲータとして活躍中。08年11月、トライアスロンを国内に普及、発展させていくための会社「株式会社アスロニア」を設立、代表取締役を務める。17年7月より東京都議会議員。著書に『仕事ができる人はなぜトライアスロンに挑むのか!?』(マガジンハウス)、石田淳氏との共著『挫けない力 逆境に負けないセルフマネジメント術』(清流出版)。最新刊は『大切なのは「動く勇気」 トライアスロンから学ぶ快適人生術』 (TWJ books)

>>白戸太朗オフィシャルサイト
>>株式会社アスロニア ホームページ


◎バックナンバーはこちらから