第258回「暑さは我慢するもの?」

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 毎日、外に行くのがはばかられるような暑さが続く。

「夏は暑いもの」と親に言われ、冷房もない校舎や体育館に通っていたのを思い出す。

 最近、学校活動における熱中症のニュースがよく聞かれる。関係者によると、この時期の学校活動では最重要課題だという。40年前の僕たちがタフだったのか、今の子どもが弱いのか!?

 

 いやいや、どうも暑さが変わっているらしい。

 明らかに日本の気候は変化し、暑さが加速しているのだ。

 とするならば、スポーツの在り方も検討していく必要がある。

 

 気温が35℃を超えると猛暑日となるのだが、実はこの「猛暑日」という言葉は2007年から使われ始めた言葉。つまりそれまでは、その言葉が用いられるほど暑くなかったということ。現在、その猛暑日の日数が、東京ではすでに過去最高ペース。つまり過去最高に暑い日が多くなっていることはデータ上、間違いない。

 

 この原因についてはここで論じるつもりはないが、間違いないのは皆が無関心ではいけないということ。先祖からお借りして、次世代にパスする地球をどうしていくのか。それぞれの責任を感じる必要があるとは思う。

 

 さて、ここで考えたいのは、子どもたちのスポーツや野外活動での対応だ。

 夏休みといえば、プールや海、キャンプや登山など野外活動を楽しみにしている子どもたちが沢山いる。スポーツ関係の合宿なども多いだろう。私自身も野外活動漬けで、小学生の時に、日焼けコンテスト(当時はなんと「くろんぼ大賞」と呼ばれていた!? そんな時代です)で優勝したことがあり、人生初の優勝トロフィーはこの時のもの。あの時の嬉しさは今でも忘れない。

 

 ともあれ、そんな活動が過去のようにできなくなってきたということだ。
 さすがに「練習中に水を飲むな!」という時代錯誤な指導者は皆無だとは思うが、従来の思考だと、どうしても子どもに無理な頑張りを求める。確かに、スポーツにおいては頑張ることや、我慢することも必要だし、それを乗り越えることでフィジカルやメンタルが鍛えられるという側面もある。だから指導者は、時に厳しく指導したくなる……。だが熱中症において、この理論は通用しなくなってきている。なにしろ気候という外的要因がこれだけ変化しているのだから、「精神鍛錬」では克服できないところにあることを理解しなければならない。

 

 ただ、指導者として、「暑いから練習止めましょう」と簡単に言えないのも理解できる。

 父兄だって、「厳しく育てて、強くして欲しい」という意見と、「無理は禁物」という意見があり、指導者は板挟み状態。さらに指導者自身が子どもの頃は根性で乗り越えてきたわけで……。

 

 子どもの熱中症リスク

 

 もちろん、大人も熱中症のリスクはあるが、子どもは身体構造上、そのリスクは何倍にも及ぶ。

 まず身長が低いこと。地面からの照り返しが強く、地面に近いとより暑さを感じる。犬が暑い日は危険であるというのは同じ理由。さらに、汗腺の機能が、まだ発達段階であるということ。人間の汗腺機能は18歳頃にようやく完成すると言われている。

 

 そして何より、自分のカラダの変化をつかみにくい。息が上がっている、顔が熱い、ふらつく、などの変化をとらえても、それが不調のサインなのかどうかも分からない可能性もある。つまり子どもは、周囲が相当注意を払わないといけないということだ。

 

 もう日本では、夏に子どもたちがスポーツをできないのか。

 そんな暗澹たる気持ちにもなるが、まずは今できる対策を考えたい。

 水分補給、休養など基本的な熱中症対策は当然として、まず子どもに関しては明確な指標を作ることが大事だ。

 

 先に書いたように個人の申告はあてにならないので、「こういう条件になったら休む」と決めること。その指標がはっきりしていると、指導者も判断しやすい。指標は気温だけでなく、湿度や熱環境を合わせて考慮する暑さ指数(WBGT)が適当。「これが28を超えたら今日は15分に1回休む!」とか、「30を超えたら外での練習は止める」というような客観的指標を作りたい。

 

 また近年は便利なツールも生まれているので、それらを有効に活用するのも一手。

 たとえばスポーツの世界で使われていた「深部体温計」。カラダの表面の体温ではなく、内部の温度が熱中症等のリスクを示していると言われている。だが、深部体温を測るのは簡単ではなかったし、機器も高価だった。それが少し安価な製品が出始め、一部中学校では生徒に装着させる試みも始まっている。

 

 いずれにしても、重要なのは指導者や関係者が自身の経験に引っ張られることなく、現状におけるリスクを正しく理解し、対応策を練ることだ。いくら水を飲んでも対応できないこともある。

 暑さに負けない心やカラダづくりも大事だが、その鍛え方に工夫が必要な時代になった。

 これから始まる本格的な夏。
 子どもたちが、元気にスポーツしてくれることを願っている。

 

 

白戸太朗(しらと・たろう)プロフィール

17shiratoPF スポーツナビゲーター&プロトライアスリート。日本人として最初にトライアスロンワールドカップを転戦し、その後はアイアンマン(ロングディスタンス)へ転向、息の長い活動を続ける。近年はアドベンチャーレースへも積極的に参加、世界中を転戦していた。スカイパーフェクTV(J Sports)のレギュラーキャスターをつとめるなど、スポーツを多角的に説くナビゲータとして活躍中。08年11月、トライアスロンを国内に普及、発展させていくための会社「株式会社アスロニア」を設立、代表取締役を務める。17年7月より東京都議会議員。著書に『仕事ができる人はなぜトライアスロンに挑むのか!?』(マガジンハウス)、石田淳氏との共著『挫けない力 逆境に負けないセルフマネジメント術』(清流出版)。最新刊は『大切なのは「動く勇気」 トライアスロンから学ぶ快適人生術』 (TWJ books)

>>白戸太朗オフィシャルサイト
>>株式会社アスロニア ホームページ

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