今年は国際スポーツイベントが目白押しだ。

 ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)、世界卓球、女子サッカー、世界水泳、世界陸上、バスケットボールワールドカップ。今はラグビーワールドカップ、さらにバレーボールワールドカップと世界レスリングも開催されている。

 そのたびに「がんばれニッポン!」となり、普段あまり見ないスポーツにもちょっと詳しくなってしまうから不思議なもの。我々を代表し、日の丸を背負って戦っている選手を見ると熱くなるのは、DNAのどこかにそんなものが埋め込まれているのかと思っている。「国威発揚」という言葉もあるが、これは国だけでなく出身校や地域にもあるわけで、高校野球もそんな要素が多分にあり分かりやすいメンタリティだ。

 

 そんな盛り上がりに水を差したいわけではないが、これほど多種目に渡って国際スポーツイベントで奮闘している国は少なく、世界的に見るとアメリカや中国、ロシアのような大国のみ。他国は、強い種目とそうでない種目がはっきりしている。人口や予算、場所、ノウハウなど限られたリソースを広くにつぎ込んでしまうと、どれもそれなりにしかならない。得意な分野に突っ込み、秀でた成績を勝ち取るというのはビジネスの世界でも常套手段だ。

 

 ヨーロッパの国々はそれに特化しており、すべての種目において強いという国はほとんどない。イギリスはサッカーやラグビー、テニスの生まれた国。それらはすごいけど、野球なんて超マイナーだし、陸上などでも中距離系に特化している。最近でこそ自転車競技のレベルは高いが、30年前までは、世界レベルには遠く及ばなかった。フランスはサッカーや柔道、自転車は盛んだが、野球はもちろん、陸上やバレーはあまり聞かない。アジア諸国に行くと、中国は比較的マルチだが、他の国はバトミントンや卓球など一部種目に特化している。

 

 冬に目を向けても、スピードスケートの盛んな国とフィギュアスケートははっきりと分かれるし、スキーでもアルペン競技が強い国、ジャンプが得意な国、クロスカントリーが強い国と比較的分かれている。ここではマルチなアメリカや中国も苦戦を強いられているのが興味深い。

 

 つまり、その国の歴史や地域的、人種的なアドバンテージを生かせる種目をそれぞれが持っており、そこに競技人口が集中し、強化が行われているということだ。逆に言うと、世界で勝つというのは容易いことではなく、そうした英知の結集こそが勝つためには必要であるというのを理解しているからこそかもしれない。

 

 日本はどうあるべき?

 

 さて、我らが日本。

 メジャースポーツである野球やサッカーが世界に挑み、結果を残している。

 もちろん、どのスポーツもやる限りは上を目指すし、頂点に向けて努力をするというのは当然だ。私も日本ではマイナースポーツであるトライアスロンで世界に挑戦し、跳ね返されてきた。だからこそ、後輩たちには私たちを超えて世界で活躍して欲しいという思いは強い。でも、体格的、環境的にディスアドバンテージが大きい種目でどこまで戦えるのか……。

 

 中国はその辺り徹底しており、勝てない種目、いや、勝てそうにない種目の強化はほとんど行わない。その代わり中国人にアドバンテージがあると考える種目への力の注ぎ方は半端ではない。国策だからできる強化ではあると思うが、国際的な成績を求めるのであれば、あながち間違いでないとも思える。

「すべてに強い」なんてあまりに難しいのではないか。

 

 そんな中で、マイナースポーツも、それぞれに素晴らしい努力を重ね、結果を残している種目もある。フェンシングなどがその典型例で、厳しい予算や競技人口の中で、強豪国を脅かす存在になっている。陸上界の躍進も素晴らしい、特に日本人が不利とされてきた種目で、北口榛花選手(やり投げ)、田中希実選手(中長距離)、三浦龍司選手(3000m障害)、橋岡優輝選手(走り幅跳び)などが世界レベルの成績を出し始めている。ちょっとこれまでの陸上界では想像できなかった躍進だ。

 

 できないと思っていたが、指導法、やり方、メンタリティが変わると可能になることもある。とすると、やはりスポーツを絞るべきではないのか!?

 

 バスケットボールで圧倒的な体格差の中で善戦する日本選手を見ていると、こんな思考がぐるぐると頭の中を駆け巡る。きっと完璧な正解などない。それぞれのスポーツが、それぞれの強みを生かし、弱みを補って頑張っている。

 私たち応援団は、そんな議論を無責任にしながらも、やはり応援し続けるのが、正しい観戦の姿なのだろう。


 がんばれニッポン!

 

白戸太朗(しらと・たろう)プロフィール

17shiratoPF スポーツナビゲーター&プロトライアスリート。日本人として最初にトライアスロンワールドカップを転戦し、その後はアイアンマン(ロングディスタンス)へ転向、息の長い活動を続ける。近年はアドベンチャーレースへも積極的に参加、世界中を転戦していた。スカイパーフェクTV(J Sports)のレギュラーキャスターをつとめるなど、スポーツを多角的に説くナビゲータとして活躍中。08年11月、トライアスロンを国内に普及、発展させていくための会社「株式会社アスロニア」を設立、代表取締役を務める。17年7月より東京都議会議員。著書に『仕事ができる人はなぜトライアスロンに挑むのか!?』(マガジンハウス)、石田淳氏との共著『挫けない力 逆境に負けないセルフマネジメント術』(清流出版)。最新刊は『大切なのは「動く勇気」 トライアスロンから学ぶ快適人生術』 (TWJ books)

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