ヤンキースが不振に喘いでいる。
 4月を終えた時点でアリーグ東地区の最下位に沈んだチームは、5月に入ってもなかなか浮上のきっかけを見出せない。首位を快走する宿敵レッドソックスにはすでに8.0ゲーム差(5月15日現在)。早くも地区10連覇に黄信号が灯り、地元ニューヨークにも危機感が漂っている。
 もっともヤンキースは2年前にも、11勝19敗のスタートから逆転で地区優勝を飾ったことがあった。そんな実績を背景に楽観論を唱える向きも多い。だが今季の場合には具体的な中身を見ていっても、彼らの前途はかなり多難に思えてくる。今回はその不振の要因、さらに先行きが暗いと思える理由を3つピックアップして見ていきたい。
(写真:ヤンキースでの5年目を迎えた松井秀喜も苦しいシーズンを過ごしている。 (C)ダミオン・リード)
1.老い
 今季のヤンキースの野球はこれまで以上にスピード感のなさが顕著。その根底にあるのが、チーム全体の老化だ。
 特に外野陣はボビー・アブレイユ、ジョニー・デーモン、松井秀喜と揃って30 歳代で、それぞれ故障の多さも目立つ。3人ともが守備範囲も狭いため、ただでさえ序盤戦は不振だった投手陣をさらに悩ませることにもなった。
 また、衰えているのは速さだけでなくパワーも同じで、この3人あわせてここまでわずか6本塁打ではまったく話にならない。これまではずっと「必要不可欠」と言われて来た松井に対しても、最近は地元メディアなどで風当たりの強い記事が見られるようになってきた。
 投手陣にしても、ここにきてようやく王健民、マイク・ムシーナ、アンディ・ペティートの先発3本柱が揃った。6月になればここにロジャー・クレメンスも加わる。だがこのローテーションも極めて高齢で、全盛期にいるのは王だけだということを忘れるべきではない。44歳のクレメンスに救世主役を望むのは酷で、打高投低のアリーグでは昨季までのランディ・ジョンソン程度の成績ではないだろうか。さらに、36歳となった守護神マリアーノ・リベラまで衰えが隠しきれなくなって来ている。
 さて、こんな高齢のメンバーで、厳しい夏場の戦いを勝ち抜けるかどうか。主力の大半がまだ全盛期に近かった2年前とは状況が違う。今後も劇的な良化は望み薄である。
(写真:「ヤンキース・マジック」と書かれたサイン通り、逆襲には魔法に近いパワーが必要となって来るかもしれない。 (C)ダミオン・リード)

2.フロントの迷走
 今に始まったことではないのだが、今季もヤンキースの補強策、ロースターの動きは疑問が残るものばかりだ。
 もともとブライアン・キャッシュマンGMは、開幕前に「より安く、より若く」を新スローガンに掲げていた。しかしオフには、メジャースカウトの間ではせいぜいが先発5番手程度の評価だった井川慶を、総額4600万ドルもの金額をつぎ込んで獲得。その井川が安定しないとみると、「今季は我慢して大事に育てる」と公言していた宝石フィル・ヒューズを、なんと4月にメジャーに上げて来た。そしてそのヒューズも故障してしまうと、今度は20億円以上の金を叩いて大ベテランのロジャー・クレメンスを強奪・・・・・・。
 とこうして見ていくと、フロントの政策の一貫性のなさ、行き当たりばったりの度合いがよくわかるはずだ。
 とにかくこのチームは長い目で見てのチーム作りという考え方ができない。ホープの見切りが早く、我慢ができず、高齢のベテランを買いに走る。その結果、チーム全体の「老い」を招いてしまった。
 この分では、今後も効果的な補強は期待できなそう。トレード期限に新たな黄昏期のベテランを抱え込むのが関の山ではないだろうか。

3.レッドソックスの進歩
 様々な欠点を抱えながら、しかしそれでもヤンキースは徐々に調子を上げていくのではないかと思う。
 200億円以上が費やされたロースターが、1年を通じて揃って不振を囲うことは考え難い。何より、アリーグにも標準よりかなり力の劣る弱小チームが数多く存在する。そういった格下相手には、スローなヤンキースも力づくで勝利をもぎ取っていけるだろう。
(写真:松坂を加えたレッドソックスの充実振りは脅威だ。 (C)ダミオン・リード)
 だが今季のヤンキースにとって最大の問題点は、実は内部よりも外にある。ライバルのレッドソックスが想像以上に大きく力をつけてしまっていることが、ヤンキース地区10連覇の最大の弊害になりそうなのだ。
 鍵は常に投手力。個人的には松坂大輔よりも大きなポイントとなると考えていたジョシュ・ベケットが、今季開幕から7連勝。これでボストンには、カート・シリング、松坂、ベケットと強力な3本柱が誕生した。また、中継ぎには岡島秀樹、抑えにはジョナサン・パベルボンとそれぞれ切り札が誕生したのも大きい。
 全体的な投手陣のバランスでは、今季のレッドソックスはヤンキースよりも遥かに上。それを基盤にしての序盤戦の好スタートは、決してフロックではない。
 10ゲーム前後の大差を逆転しようと思うなら、自身が調子を取り戻すだけではなく、ライバルの凋落も必要となって来る。そういった面で、今季のアリーグ東地区の2強の形勢逆転はかなり難しいのではないだろうか。
 ヤンキースは本当に久方ぶりに、ワイルドカードに照準を合わせる必要が生まれて来そうである。

杉浦 大介(すぎうら だいすけ)プロフィール
1975年生、東京都出身。大学卒業と同時に渡米し、フリーライターに。体当たりの取材と「優しくわかりやすい文章」がモットー。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシング等を題材に執筆活動中。

※杉浦大介オフィシャルサイト Nowhere, now here
◎バックナンバーはこちらから