女子は優勝、男子は準優勝という結果でアジア大会のサッカーは終わった。実に発見の多い大会だった。

 

 一番の発見は「お、結構効くんだ」ということ。どういうことかと言えば、女子決勝の北朝鮮である。

 

 準々決勝で韓国と対戦した際は相当に激しいプレーが目立ったと聞いていたし、男子の北朝鮮は“アニマル”というより“ビースト”と表現した方が相応しいチームだった。当然、決勝では通常以上の気構え、激しさで臨んでくる……と日本側も覚悟はしていたはずである。

 

 ところが、最初から最後まで、北朝鮮が持っていたはずの毒牙が日本に向けられることはなかった。点差をつけられた監督の怒りは、審判や日本人ではなく、懲罰交代という形で自国の選手に向けられた。

 

 北朝鮮が対戦した相手が中国だった、というならまだわかる。日本相手にはけだものになる彼らが、中国とはきわめて行儀のいい試合をする様は、過去に何回か見てきた。だが、舞台は決勝で、相手は日本だった。それでも彼女らがクリーンだったとなると、「効いたんだ」としかわたしには思えない。

 

 日本がAFCとFIFAに提出したとされる、北朝鮮の蛮行に対する「意見書」である。

 

 正直、そんなもん馬耳東風で終わるわ、とほぼほぼ諦めていた。だが、中国や韓国ですら味方をしてくれなかったことで、北朝鮮としても「日本相手なら何をしてもいい」という考えが通用しないと痛感したのではないか。まして、意見書を提出されてもなお、暴挙を連発したとなれば、今後、北朝鮮を裁く審判の心証も最悪になる。アジアからの出場枠が広がったW杯予選を踏まえ、北朝鮮としては、少しでも印象を好転させたかったのではないか。

 

 選手個々に目を向ければ、最終ラインで存在感を発揮した古賀や、“将軍”的なオーラを放ち始めた谷川など、新世代の台頭が目立った。パリ五輪出場権を獲得した暁には、相当数の選手がメンバー入りはもちろん、レギュラーを脅かす存在にまでなっているはずだ。

 

 一方、男子に関しては残念としか言いようがない。

 

 急造チームだった点は認める。オーバーエイジもいなかった。ただ、兵役免除の懸かった韓国に、明らかに気迫負けしているのには失望させられた。

 

 韓国に懸かっていたのは、誤解を恐れずに言えば罰の回避。これはこれで動機付けになるのだろうが、日本側は「ここで結果がでなければ1軍入りなどありえない」と考えるべき、いや、考えてほしかった。いわば、パリ行きの、世界へのラストチャンス。ただ、そんな気概を感じさせてくれる選手はほぼいなかったし、監督が動機付けしたようにも見えなかった。それがとにかく、残念。

 

 だが、何より残念だったのは、すっかり克服したと思われた“日本病”の再発だった。行かなければいけない場面で、行かない。行こうとしない。バックパスと横パスのオンパレード。

 

 最近のA代表ではほぼ見られなくなっただけに、国として克服したのかと勘違いしていた。だが、現在の代表が同じ監督、ほぼ同じ主力を軸に積み重ねていたからこそ形になっただけで、挑戦よりも安全第一を選びたがる国民性はまるで変わっていなかったらしい。

 

 つまり、森保監督が、あるいは現在の主力選手が入れ替われば、A代表もバックパス愛好家に成り下がる素地が、この国には依然としてある。そう気付かされたことが、何よりも苦い。

 

<この原稿は23年10月12日付「スポ-ツニッポン」に掲載されています>


◎バックナンバーはこちらから