これほどのオウンゴールは、実際のサッカーの試合でも、なかなかお目にかかれない。事の重大さに気付き、後になってあのゴールはなかったことにしてくれ、というのは、ちょっと虫がよすぎるのではないか。

 

 馳浩石川県知事の“自白”が波紋を広げている。さる17日、日体大での講演で、21年東京五輪・パラリンピックを巡る招致活動の舞台裏をぶちまけたのだ。いささか旧聞に属する話だが、正確性を期するために再現してみる。「私は、当時総理だった安倍晋三総理から“馳、国会を代表して五輪招致を、勝ち取れ。必ずやってくれ”と叱咤激励をされた」「今からしゃべること、メモはとらないように」「総理は“カネはいくらでも出す、出せる。官房機密費もあるから”と」

 

 当時の馳氏は衆院議員で自民党・東京五輪招致推進本部長。「それで私は周囲に話を聞き、作戦を練りました。(中略)IOC委員は全員で105名、その全員のアルバムを作ってお土産として持参したのです。外で言っちゃ駄目ですよ。官房機密費を使って作ったので」「写真が20枚か30枚くらいのアルバムで1冊20万円ですよ。それを私は世界中に持っていきました」

 

 ここまで事細かに招致工作の手口を“自供”したのは、良心の呵責に苛まれたためか、と最初は思った。ところが、どうもそうではなく、自らの手柄話が本旨だったというのだから、もう何をか言わんやだ。

 

 言うまでもなくIOCは、五輪や招致関係者への金品の授受を禁じている。当時のルールでは、「常識的な範囲の贈り物」は慣習として認められていたが、それも当時の招致関係者に聞くと「せいぜい100ドル程度」。馳氏の“自供”に従えば、20万円×105人=2100万円。税金が原資の官房機密費が、IOCの倫理規定に反するような使われ方をされていたのなら、国民はたまったものじゃない。

 

 今回の馳発言を巡り、私が最も危惧するのはモラルハザードの蔓延である。近年、スポーツ庁やJOC、JSC、各競技団体は歩調を合わせて「スポーツ・インテグリティ」の強化及び推進に取り組んできた。インテグリティとは高潔性、健全性、そして品位。たとえばJリーグはスポーツを脅かす存在のひとつに「贈収賄」をあげている。

 

 馳氏は18年12月、スポーツ議員連盟の幹事長として、スポーツ庁に「スポーツ・インテグリティ確保のための提言」を行っている。仮にインテグリティ確立の旗振り役が、IOCの倫理規定違反に抵触しかねない行為に手を染めていたとなれば、いくら「スポーツが持つ価値観とはフェアプレーであり、相手と同じルールで取り組んでいく姿勢です」(「日経ビジネス電子版」2016年4月12日配信)と立派なことを言っても、誰も聞く耳を持たなくなるだろう。これではインテグリティどころかギルティである。いや“自爆テロ”ならぬ“自白テロ”か。スポーツ界が負ったダメージは計り知れない。

 

<この原稿は23年11月29日付『スポーツニッポン』に掲載されたものです>


◎バックナンバーはこちらから