開幕1ヶ月が過ぎ、高知は7勝5敗2分の首位に立っています。その原動力となっているのが、エースの上里田光正とともに、手薄な投手陣を守り立てている西川徹哉の存在です。正直、ここまでやってくれるとは思いませんでした。うれしい誤算です。

 西川が試合を作れるようになった最大の理由は変化球の精度がアップしたこと。曲がり落ちるスライダーを狙ったところへ出し入れできるようになりました。さらに最近覚えたチェンジアップも有効で、バッターのタイミングをうまくずらすことができています。

 27日の香川戦では引き分けになったものの、9回を無失点に抑え、29日のソフトバンクとの交流試合では彼を先発に抜擢しました。一回りを0点に抑えてくれれば上出来だと思って送り出したのですが、2回に昨年の希望枠ルーキーの松田宣浩にヒットを打たれて相手に飲まれてしまったのか、3点を失ってしまいました。

 それでも次の回は立て直して三者凡退に仕留めたところが彼の成長点です。NPBの打者は初球から甘い球なら積極的に打ちにきます。ミスショットもありません。不用意なボールは絶対に禁物です。このことを普段のリーグの対戦でも意識してくれれば、高知を代表する投手になるでしょう。

 西川の成長は大きいものの、投手陣の頭数が少ないことは変わりません。そこにやってきたのが、カープドミニカアカデミーから派遣されたソリアーノパチェコの2投手です。2人とも向こうの選手らしく、豪快な投球が持ち味です。ソリアーノはするどく曲がるカーブを持っていて、直球とのコンビネーションが武器になります。

 パチェコはサウスポーですが、投げる瞬間に独特のクセがあります。それは舌をペロンと出しながら投げること。その姿は僕が巨人のコーチ時代に指導したバルビーノ・ガルベスを彷彿とさせます。ガルベスのように少々荒れ球でもストレートで押せる投手になってほしいですね。

 パチェコがガルベスなら、ソリアーノは同じ年(96年)に入団したマリオ・ブリトーといったところでしょうか。マリオはフォークボールと直球のコンビネーションだったので、ソリアーノとは少し違いますが、いずれも96年の巨人のリーグ優勝に貢献した助っ人です。2人にも高知の優勝請負人としての役割を期待しています。

 向こうの選手の全体的な特徴として、監督、コーチの言うことはあまり聞きません。マリオには“お化けフォーク”と呼ばれたストンと落ちる得意球があったのですが、明らかにそれとわかるクセがありました。修正しようと、いろいろ言ってはみたものの、「オレはこれでやっているんだ」の一点張り。結局、マリオのフォークは次第に相手打者に見破られ、1シーズンしか持たずクビになりました。当時メッツの監督をしていたボビー・バレンタイン(現千葉ロッテ監督)が「相手打者が慣れるまではフォークに手こずるだろうね。でも何ヶ月もすれば打たれるよ」と予想していた通りの結果でしたね。

 ソリアーノ、パチェコがどんな性格の持ち主かはまだつかめていませんが、少なくとも今のままではNPBやMLBでの活躍は無理です。打者との駆け引きができませんし、スタミナも不足しています。30日のデビュー登板ではそろって2イニングを投げてもらいましたが、現状では3、4回持てばいいところだとみています。まずはこの四国の地で1年間、しっかり経験を積むことが必要でしょう。

 故郷から遠く離れてのプレーは生活するだけで大変です。一番心配しているのは食事面。食べ物が口に合わなければ体が持ちません。当然、いいピッチングをすることは不可能です。だから、何を食べたのかは常に聞くようにしたいと思っています。デビュー登板の前日には通訳の方とビアガーデンで一杯飲みに行きました。そういった気分転換もたまにはいいでしょう。果たして高知から未来のMLBスターが誕生するのか。みなさんも2人の外国人の今後にぜひ注目していてください。

※今回より、このコーナーは第1、3火曜日に更新日が変更になりました。今後ともよろしくお願いします。

藤城和明(ふじしろ・かずあき)プロフィール>: 高知ファイティングドッグス監督
 1956年4月5日、兵庫県出身。150キロ近い剛速球を武器にした本格派右腕として、市立琴丘高から新日鉄広畑へ進み、77年のドラフト1位で巨人に入団。82年に阪急へ移籍。86年、ロッテで現役を終えた。引退後は歌手デビューして注目を集める。93年より5年間、巨人の2軍投手コーチを務め、98年には韓国・三星ライオンズ投手コーチも経験した。現役時代の通算成績は101試合14勝19敗、防御率4.51。05年の四国アイランドリーグ創設に伴い、高知の監督に就任。07年も3シーズン目の指揮を執る。


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