18日、U-22日本代表がU-22シリア代表を2−0で下して北京五輪アジア最終予選進出を決めました。中東でのアウェー戦は何が起こるかわからないですから、その中で結果を出したことは評価されていいと思います。まずはおめでとうと言いたいですね。

 それにしてもシリアはホームなのに前半は元気がありませんでした。必死にボールを追う姿が見えず、受けの姿勢で日本を迎えた印象を受けました。素晴らしい立ち上がりを見せた日本とは対照的でしたね。

 日本で目立ったのは、サイドのMF水野とMF本田圭をよく使ってチャンスを作っていたことです。サッカーは最終的にはゴール(真ん中)を目指すものですが、サイドを揺さぶってスペースを作りながら攻めることが結果的にはゴールへの近道になります。サイドチェンジを効果的に使いながら、サイドから崩す意図を感じましたね。
 
 前半17分の水野の先制点は、右サイドから中に切り返して左足でミドルシュートを放った素晴らしいゴールでした。水野は常にクロスを上げようと縦に仕掛ける姿勢を相手DFに見せていました。だからこそ、中に切り返した時にシュートを打つスペースをつくりだすことができたんです。中央にFW平山がいたことも、相手に「クロスを上げさせたくない」と意識付けさせた大きな要因だったと思います。相手の心理の逆を突く動きさえできれば、大袈裟なフェイントはいらないんですね。

 2点リードで迎えた後半、日本はシリアの反撃に守勢に回る時間が多くなってしまいました。相手が前掛りになって運動量が増えたとはいえ、簡単に中盤でボールを奪われることも多く日本のペースで試合を運ぶことができませんでした。失点こそしませんでしたが、課題が残る後半でしたね。

 課題という点では、試合を通して個人技で仕掛ける場面が少なかったことが残念でした。先制点の水野のプレーのように、リスクを犯して個人でチャレンジする姿勢をもっと見せてほしかったですね。仕掛けるからこそスペースが生まれるんです。

 まだ22歳なんですから、ソツなく全てをこなす必要はありません。自分のストロングポイントを発揮して、思いきってプレーすればいいんですよ。それをチーム全体の中でコーディネイトするのは監督をはじめとするコーチングスタッフの役目ですからね。

 U-22日本代表の到達点は最終予選進出ではありません。オリンピックに出ていい結果を残すこと、そしてその先につながっていきます。そのためにもっとチャレンジして個を磨くべきなんです。最終予選突破は簡単ではありませんが、恐れずに挑んでいってほしいですね。


「状況把握力に優れた関塚監督」 〜Jリーグ〜

 Jリーグは第8節を終了した段階ですが、柏レイソルの奮闘が目立つ以外はガンバ大阪、浦和レッズ、川崎フロンターレといった実績のあるチームが上位に揃っています。今年もこの3チームを中心に優勝が争われることになりそうですね。
 
 第7節で浦和のホーム無敗記録を25試合でストップさせた川崎は、関塚監督の下で年々チーム力が向上している印象を受けます。関塚さんは僕の中学校の先輩であり、住友金属=鹿島アントラーズの先輩でもありますから頑張ってほしいですね。

 関塚さんの指導者としての一番の資質は、状況把握力だと思います。チーム状況を見て、いまやらなければいけないことを問題提起して、その解決策を順序だてて組み立てることができる。本当にサッカーをよく知っているんですね。それから、凄く真面目な人ですよ。鹿島で長年コーチを務め、様々な監督と一緒に仕事をしてきた経験をもとに自分のサッカー理論を構築していったんでしょう。

 僕が心配していた鹿島は、第6節から2連勝を飾って中位に上がってきました。その要因は骨折で戦線離脱するまで先頭に立ってチームを牽引していたFW柳沢の充実ぶりとMF野沢の復帰だと思います。

 特に柳沢は一皮剥けた感じがしますね。頭と体がフィットしてくる28、9歳という年齢に加え、キャプテンに就任して責任感が出てきたようです。今後また海外でプレーする可能性は限りなく少ないですからね。その中で自分がすべきことはなにかを考えたんでしょう。得点と豊富な運動量で文字通りプレーでチームを牽引していました。それだけに全治3ヶ月の負傷は残念でしたね。

● 大野俊三(おおの・しゅんぞう)<PROFILE>
 元プロサッカー選手。1965年3月29日生まれ、千葉県船橋市出身。1983年に市立習志野高校を卒業後、住友金属工業に入社。1992年鹿島アントラーズ設立とともにプロ契約を結び、屈強のディフェンダーとして初期のアントラーズ黄金時代を支えた。京都パープルサンガに移籍したのち96年末に現役引退。その後の2年間を同クラブの指導スタッフ、普及スタッフとして過ごす。現在、鹿島ハイツスポーツプラザ(http://business2.plala.or.jp/kheights/)の総支配人としてソフト、ハード両面でのスポーツ拠点作りに励む傍ら、サッカー教室やTV解説等で多忙な日々を過ごしている。93年Jリーグベストイレブン、元日本代表。

*ZAGUEIRO(ザゲイロ)…ポルトガル語でディフェンダーの意。このコラムでは現役時代、センターバックとして最終ラインに強固な壁を作った大野氏が独自の視点でサッカー界の森羅万象について語ります。


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