第316回 「銀皿」 ~J3優勝とJ2復帰~

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 2023年11月11日(土)のニンジニアスタジアム(松山市上野町)。緑の芝生が照明灯の明かりで美しく浮かび上がる中、時刻は午後8時を迎えようとしている。1万1128人という大観衆が見守る中、ピッチ上では後半アディショナルタイム7分が経過。愛媛FCのフリーキック。GK辻周吾選手が自陣から敵陣に向けてボールを大きく蹴り込んだ。

 

 次の瞬間、試合終了を告げるホイッスルがスタジアムに響き渡る。それと同時に溢れ出す涙。拭っても、拭っても、私の目からこぼれ落ちる。観客席では大歓声が沸き起こり、スタジアム全体に歓喜の輪が広がっていく。

 

 誰彼構わず、仲間達と抱き合い喜びを分かち合う愛媛FCサポーターたち。

「やったよ!やったよ!松本さん!」

「あなたが、ここまで(長年、サポーターの活動を)積み重ねて頑張ってきたからこそ、この結果に繋がったんですよ!」

 

 慕ってくれている後輩サポーターたちが、私のことを抱きしめ、労いの言葉を掛けてくれた。

 

 この日、2023J3第35節「愛媛FC対FC今治」の県勢対決、いわゆる「伊予決戦」が行われ、愛媛FCが見事勝利し、J3優勝を成し遂げた。また、同時にJ2復帰が決定し、愛媛FCファミリー(クラブ、選手・スタッフ、ファン・サポーター、スポンサー・支援者)にとっては二重、三重の喜びに包まれた1日だったのである。

 

 これまで、四国リーグ3連覇。JFL優勝とJ2昇格。愛媛FCのサポーターになって25年、色々な場面で感動し、涙してきた過去がある。それでも、この年齢になって、こんなに涙を流すとは想像もしていなかった。

 

 もちろん「喜びの涙」ではあるが、多くのサポーターや支援者、過去に愛媛FCを支えてくれた方々に対し、強い気持ちで約束していた「J2復帰」という目標を達成することができ、その安堵感から来る涙とも言える。

 

 試合終了の笛と同時に、背負っていた重たい荷物を、ようやく降ろすことができたような感覚に近い。

 

 翌日の地方新聞やテレビ・ラジオ局各局では、「愛媛FCのJ3優勝&J2復帰」の話題がトップニュースとして報道されていた。昨今、暗いニュースも多い中、故郷・愛媛に明るい話題を提供することができて、本当に良かった。

 

 愛媛FCトップチームは、ここ6年間ほど、戦績的な部分で低迷期へと入っていて、大きな話題を作ることもできず、加えてコロナ禍の影響もあり観客動員数も減少傾向にあった。そんな状況下、他のJクラブ応援のため愛媛FCから離れていくサポーターがいたり、気力を失いサポーター自体を辞めていく方、また他のスポーツの応援へと流れていく方もおられ、自身も悩みを抱えることも多くなっていた。

 

 現代風に言えば「推し変」とでも言うのだろうか。まあ、そんなふうに簡単な言葉で表現できるとは思うが、クラブにとっては損失であり、大きな問題である。更にJ3降格時にはチームの存続自体が危ぶまれることさえあった。

 

 しかし、クラブや残されたサポーターたち、またスポンサーなどの支援者の方々は決して諦めることはしなかった。草の根レベルでの地道な活動を続け、少しずつ環境を改善したり、サポーター仲間を増やす活動にも取り組んできたのである。

 

 近年ではクラブを中心にクラウドファンディングの展開など、様々な方の協力により、トップチーム専用の天然芝練習場の付属設備の追加整備を進めることにも成功し、話題にもなった。サポーターたちもファンや友人、各種団体への声掛けを頑張り、現在、ゴール裏サポーター、特にコアブロックには、新規のサポーターや10代、20代の若いサポーターたちが増え始めている。

 

 その様子はJFL優勝時のような活気に溢れており、力強く迫力ある応援が復活しつつあるので、とても喜ばしく感じている。

 

 今シーズン、全力で戦ってくれた選手たちと共に、愛媛愛に溢れた愛媛FCを愛する人々が、クラブを見捨てることなく、支え続けてくれたからこそ、この日、1万人を超える集客を達成し、その大観衆の中で銀色のシャーレを掲げることができたのだと実感している。

 

 そんな愛媛FCファミリーの皆さんには、心から感謝を申し上げたい。

 

「どんな時もクラブを支えてくださり、ありがとうございます。私の故郷に愛媛FCがあって本当に良かったです。幸せです」

 

<松本 晋司(まつもと しんじ)プロフィール>

1967年5月14日、愛媛県松山市出身。愛媛FCサポーターズクラブ「Laranja Torcida(ラランジャ・トルシーダ)」代表。2000年2月6日発足の初代愛媛FCサポーター組織創設メンバーであり、愛媛FCサポーターズクラブ「ARANCINO(アランチーノ)」元代表。愛媛FC協賛スポンサー企業役員。南宇和高校サッカー部や愛媛FCユースチームの全国区での活躍から石橋智之総監督の志に共感し、愛媛FCが、四国リーグに参戦していた時期より応援・支援活動を始める。

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