人気衰退に悩む米ボクシング界だが、5月5日に行われるカードだけは誰も無視できないだろう。
この日、近年では最高と思えるビッグカードがついに実現する。現役最強と目されるスピードスター、フロイド・メイウェザー(37戦全勝24KO)の牙城に、90年代を支えて来た「ゴールデンボーイ」オスカー・デラホーヤ(38勝4敗30KO)が挑む。まさに世代を代表する両者が争うWBCジュニアミドル級タイトル戦の行方に、ボクシング好きのみならず、多くのスポーツファンの注目が集まっているのだ。
(写真:現役最強王者メイウェザーは人気者デラホーヤを圧倒できるか)
 役者が揃ったこの試合は、ちまたでは「史上最大規模の興行」になるとも言われている。ファイトマネーはデラホーヤ2000万ドル、メイウェザー800万ドル。対戦が決まって以降、両選手は全米11都市を回る大掛かりなプロモーショナルツアーを行った。その甲斐あってか、350〜2000ドルという高額の入場券は発売後あっという間に売り切れ、チケット売り上げだけで合計1900万ドルにも達したという。
(写真:興行自体も歴史的なものとなることが確実だ)

 また、試合は別料金を払うことによって視聴が可能となるペイ・パー・ヴュー方式でテレビ中継されるが、一部からはこれまでで最大の視聴者数を期待する声(過去最高は97年のイヴェンダー・ホリフィールド対マイク・タイソン戦)すら聴かれる。中継を担当するHBO局は、試合に先駆け「メイウェザー&デラホーヤ24/7」と呼ばれるドキュメンタリー番組を4回に渡って放映。選手のプライベートまでも付きっきりで追いかけたこのフィルムで、ビッグファイトの前景気をさらに煽ろうという構えである。
 とにかく、様々な意味で空前の規模となるこのタイトルマッチ。ボクシング界に漂うBuzz(興奮したうわさ話)は、試合が近づくに連れて全米に飛び火していくはず。歴史に刻まれるイベントとなることだけは、もう絶対に間違いないだろう。

 さて、それでは肝心の試合自体はいったいどのような展開をみせるのか?
 会見では「相手のキャリアを終わらせる」と互いに息巻いてはいたが、意外に盛り上がりを欠いてしまうのではないかという見方も多い。スピードを軸としたオールマイティ型のメイウェザーと、適応能力に定評があるデラホーヤ。共にディフェンスの良い2人だけに、確かに派手な打撃戦は望み薄か。

(写真:デラホーヤも名参謀フレディ・ローチ氏をセコンドに雇い必勝態勢だ)
 クリーンヒットの少ない地味な技術戦に終始し、結果は判定に委ねられる可能性はかなり高い。「イベント規模は凄いけど、この試合は必ずしもそれに見合った内容になるとは限らない」とは、昨今の米スポーツ現場でよく囁かれる下馬評である。
 個人的には、たとえ体格の差はあろうとも、やはり昨今の勢いで勝るメイウェザーが断然有利であるように思う。まずデラホーヤが同じくスピード型のシュガー・シェーン・モズリーを2戦2敗と苦手にしていたことを留意すべき。そして何より気になるのが、ここしばらくのデラホーヤが試合から離れがちで、たまに行った試合でも必ずしも良い動きを見せていない点だ。

 03年9月のモズリー戦の敗戦を含め、デラホーヤはここ4年間で4戦を行って2勝2敗。しかもそのうち04年6月のフェリックス・シュトルム戦も、劣勢の末に不可解な判定で勝利した拙戦だった。と考えていくと、真の勝ち星は昨年のリカルド・マヨルガ戦のみ。この試合でも、確かに5ラウンドKOは見事な結果だったが、それにしてももともと被弾の多いマヨルガのスタイルにかなり助けられた感も強かった。
 段違いのスピード、時の勢い、そしてデラホーヤの試合枯れと、状況はすべてメイウェザー有利を物語る。順当ならば、前半からメイウェザーがスピードに任せてポイントを連取していくはず。デラホーヤも決定的な一打こそ避けるだろうが、しかし展開的にはまったくのワンサイドで、アンチクライマックスな結末となったとしてもまったく驚くべきではないだろう。

(写真:次期挑戦者ミゲル・コットもこの試合の行方に注目している)
 しかしその一方で、この試合には是が非でもドラマチックな形で終わってほしいと願わずにはいられない。
 前述した通り、現在のボクシング界は慢性的スター不足。本場と言われる米国のリングにも、メイウェザーとデラホーヤに次ぐドル箱ボクサーは育っていないのが現実だ。
 実際に、この試合には「現代最後のビッグマッチ」の趣も漂う。5月5日が終わったあと、勝者がミゲル・コットやリッキー・ハットンらと対戦すればそれなりの興味を呼ぶだろう(デラホーヤはこの試合での引退を仄めかしているが)。だが、その後には何が残る?
 未来への興味を残すためには、この試合が劇的な展開、結末をみせ、勝者に自身のステイタスを大きく上げてもらわねばならない。勝ち残るのはおそらくメイウェザーだろうが、煮え切らない判定ではなく、ぜひともセンセーショナルな形での結末を演出して欲しいのだ。

 そして晴れて名声を確立したこの現代の最強王者に、これから飛び出してくる若手ホープたちが順繰りに挑んでいく。そういった図式が完成すれば、低迷ボクシング界もまた少しずつ活気を帯びていくはずだ。
 そんな「ドラマティックファイト」が実現するには、デラホーヤの頑張りがどうしても必要になる。90年代の牽引車に、最後の一太刀は残っているか? 序盤から予想外の一発を打ち込み、メイウェザーを慌てさせることができるか?
 
 2週間後、決戦のゴングは鳴る――。
 ボクシングの一つの時代の終焉となるか、あるいは新たな時代の開始のファンファーレを告げるのか。結果だけではなく、内容にも期待をよせながら、近年最大のビッグマッチの開始ゴングを待ちたいところである。


杉浦 大介(すぎうら だいすけ)プロフィール
1975年生、東京都出身。大学卒業と同時に渡米し、フリーライターに。体当たりの取材と「優しくわかりやすい文章」がモットー。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシング等を題材に執筆活動中。

※杉浦大介オフィシャルサイト Nowhere, now here
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