男女混成の5人制手打ち野球「ベースボール5(ファイブ)」の日本代表選考を兼ねる「侍ジャパン チャレンジカップ第1回Baseball5日本選手権」が4日、神奈川・横浜武道館で行われた。オープンの部はジャンク5(東京都町田市)が、ユースの部は横浜隼人高等学校Aが優勝した。大会MVP(男女)には ジャンク5 の三上駿、大嶋美帆、横浜隼人高Aの吉村祐哉、廣川沙羅が選ばれた。

 

 ベースボール5は2017年に世界野球・ソフトボール連盟(WBSC)より野球・ソフトボール振興の一環として誕生したアーバンスポーツ。元々はキューバで行われていた手打ち野球が発祥とされている。日本は22年のW杯で準優勝を果たした。ゴムボールを使用し、守備側はグローブを装着しない。フィールドは18m×18m。野球より狭く、一瞬の判断ミスやわずかな捕球の遅れが命取りとなる競技だ。

 

 第1回の日本選手権はオープンの部、ユースの部とカテゴリーを分けて開催された。三上、大嶋、島拓也のW杯銀メダルメンバーを擁するジャンク5は1セットも落とすことなく頂点に辿り着いた。

 

 トーナメント初戦から山だった。5STARs(埼玉県上尾市)はジャンク5と同じくW杯銀メダルメンバーを擁するチームだ。 六角彩子、數田彩乃、宮之原健、内山瑞輝と数はジャンク5を上回る。第1、2セットと先制を許したが、いずれも2ー1と逆転勝ちした。「互いに硬さが見られましたが、守り勝つことができた。初戦が厳しい戦いだったので、そこで勢いに乗れた」と三上。優勝候補同士の対戦を制し、弾みを付けた。

 

 準決勝のHi5TOKYO(東京都文京区)戦は8-1、1-0、決勝のGIANTS(東京都千代田区)戦は7-2、5-1と危なげなかった。ダイヤモンドを所狭しと駆け回った三上の運動量は最後まで落ちなかった。決勝の第2セット。2回裏、無死三塁のピンチを迎えると、好捕を連発した。一塁側手前に落とそうとした相手の打球を読んでキャッチ。続く打者の強烈な打球を飛びついて捕った。その回に先制点こそ許したものの、ビッグイニングにさせなかったという点で彼の役割は非常に大きかった。また、直後の3回表には同点打を放ち、続く大嶋がピッチャー強襲の当たりを打つと、二塁からホームへ駆け抜けた。2-1と逆転し、その後点差を広げて勝ち切った。

 

「どのチームよりも練習してきた。優勝できてホッとしています」とはジャンク5の若松健太監督。6セット合計6失点と1セット平均失点が1.0と抜群の安定感を誇った。チームの大黒柱・三上も「どれだけ点を抑えられるか。慌てないこと、無駄な送球をしないことは徹底しました」と堅守に胸を張った。打っては1番を任され、高い出塁率を誇る三上は、守ってはミッドフィルダーとして内野の中心に位置して縦横無尽に動き回った。文句なしの大会MVP選出だろう。「一番は楽しかった」と笑顔を見せた。

 

 女子MVPもジャンク5から。大嶋は主に2番セカンドとして、攻撃では繋ぎ役、守備では堅実なフィールディングで貢献した。「MVPよりも優勝したことがうれしい。MVP受賞は副産物みたいなものです」。彼女はチームの強みを「チームワークだと思います。試合の場では楽しく盛り上げてくれる」と言う。エラーをした選手も周りの選手も笑顔が絶えなかった。

 

 大会を主催した全日本野球協会の山中正竹会長は「WBSCはベースボール5の普及に力を入れています。いずれはオリンピック種目に入っていくようになればいいという思いもあり、かなり精力的にやっています。そこに日本も遅れを取らないようにと考えています」と語る。今大会は野球日本代表「侍ジャパン」が冠協賛に付くなど、野球界の力の入れ様が窺える。
「日本の野球人口は少なくなってきている。ベースボール5がひとつの転機になっていけばいいと考えています。場所を取らないし、少人数でできる。ボールひとつで気軽に楽しめる。チームもどんどん増えていくだろうと期待しています」

 

 ベースボール5は現役・元を含め野球、ソフトボール経験者が多い。横浜隼人高校のメンバーは野球部で構成されており、今大会オープンの部ベスト4に入った東京ヴェルディ・バンバータにはタレントの稲村亜美、ソフトボール元女子日本代表の長﨑望未が在籍している。「男女混合で年齢関係なくできるところが楽しい。対戦相手とも仲良くなれるのが魅力ですね。野球より少ない人数で、ボールひとつでできるので手軽に楽しめるスポーツ」(稲村)

「ソフトボールとは、ちょっと似ているけど違う競技と感じています。音楽を掛けながら試合をするので、皆さんが楽しみながらできるし、観られる。男女混合というのも珍しい。野球とソフトボールとは違った層を取り込むことができるかもしれないという意味では、いろいろな可能性を秘めたスポーツだと思います」(長﨑)

 

 ベースボール5はMCがマイクで盛り上げ、会場には音楽が流れる。“お祭り感”がある。コートが狭い分、屋外でも屋根のある商業施設の広場やイベントスペースでも実施可能。昨年6月の「Baseball5 Asian Trophy 2023」は、愛知県名古屋市栄にあるオアシス21銀河で開催された。「気軽に楽しめる」のは観客も同じ。いい意味での敷居の低さも魅力のひとつである。「どこでもできる。発祥とされるキューバも路上から始まった。いろいろなところで広めていきたい」と三上。選手たちも普及活動に協力的だ。ジャンク5の若松監督は桜美林大学准教授。同大でベースボール5をカリキュラムに採用し、国内初の部活動も立ち上げた。この日、第1回日本選手権を無事終え、新たな歴史を刻んだベースボール5。今後、どう進化し、広がっていくかに注目だ。

 

(文・写真/杉浦泰介)