確かに医学的な見地に立てば、そういう判断になるのかもしれない。しかし危険だからという理由で規制を設けるのは、むしろサッカーの未来を考える上でマイナスになるのではないか。ボールひとつあれば、地球上のどこでも誰とでも楽しめるのが、このスポーツの最大の魅力ではなかったのか。

 先頃、CBF(ブラジルサッカー連盟)は来年10月に行われるアウェーでの南アW杯南米予選・ボリビア戦を拒否する意思を表明した。開催地に予定されているラパスは海抜3600メートルの高地にあり、選手の健康面を考えた場合、試合を行うには不適切と判断したのだ。

 その背景にはFIFA(国際サッカー連盟)の高地での試合開催規制がある。FIFAは昨年12月、原則として海抜2750メートルを超える高地での試合を禁じることを決定した。特例として許可する場合、海抜2750メートルを超える高地ではアウェーチームに対して1週間、3000メートルを超える高地では最低2週間の適応期間を設けることをこの3月に義務付けた。

 当然、アンデス諸国を含む南米各国はこの決定に猛反発したが、ブラジルだけはFIFAの決定を受け入れた。選手の健康面への配慮という表向きの理由の他に、高地での試合は不利だとの判断が働いたからだろう。

 昨年10月の南米予選初戦、ブラジルはアウェーでコロンビアとスコアレスドローに終わった。試合地のボゴタは海抜2640メートルの高地。空気が薄く、ロナウジーニョ、カカー、ロビーニョらの動きは一様に鈍かった。前回のW杯予選(04年)ではエクアドルが海抜2850メートルのキトでブラジルを撃破した。前々回の予選(01年)でもボリビアがラパスでブラジル相手に3対1と完勝している。平地では世界最高峰のテクニックを誇るスターたちも、高地では羽をもがれた鳥のように無力だった。

 それもまたサッカーの一部ではないか。黄金の足を持つ億万長者たちも、足元のボールのように大自然をコントロールすることはできない。自らの存在が無力であると知ることは傲慢(ごうまん)を退け、頽廃(たいはい)を遠ざける。FIFAは意のままにならない大自然を拒絶するのではなく受け入れ、サッカーとの共生の道を探るべきである。

<この原稿は08年4月23日付『スポーツニッポン』に掲載されています>

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