「名捕手あるところに覇権あり」
 これが楽天・野村克也監督の持論である。
 楽天には現在、藤井彰人、嶋基宏と二人のレギュラー捕手がいるが、野村によれば「帯に短し、襷に長し」――。

 ではキャッチャーとして一流になるためには何が必要か。
「それは“遊び心”ですよ」
 野村は意外な言葉を口にした。
「キャッチャーはね、優等生じゃ務まらない。たとえば女性を誘惑するにしても、色々と戦略、戦術がいるじゃないですか。それは仕事にも生きてくる。人間、遊びが大切ですよ」

――監督も相当、おモテになったでしょう?
「いやいや(笑)。これはまわりを見ていて思うんですが、世の中で大成した人って、大体、若い時は“遊び人”ですよ。“よく遊び、よく学ぶ”ってことが大切なんじゃないでしょうか」

――若い選手、とりわけキャッチャーは遊ぶことが大切だと?
「配球術っていうのは臨機応変に考えることが基本なんですよ。真面目なキャッチャーは、このカウントではこのボールだと融通が利かない。配球に傾向がもろに出るので、バッターからしたら読みやすいんですよ。
 観察力と洞察力。これはキャッチャーが成功する上で、なくてはならないものですが、それは“遊び心”がないと育まれない。時には無茶もしないとね。なにしろペナントレースは144試合もあるんですから」

 言われてみれば、確かにそのとおり。野村にしろ森祇晶にしろ、あるいは田淵幸一にしろ、一時代を築いた名捕手は女性にもよくモテた。
 最近では古田敦也がそうか。独身時代は方々で浮名を流し、写真誌の標的にされたものだ。

 そういえば野球に関しては厳しい視線を持つ野村だが、プライベートの問題でカミナリを落としたという話は寡聞にして知らない。遊びは「芸の肥やし」と肯定的にとらえているからだろう。いい監督である。

<この原稿は2008年5月12、19日合併号『週刊大衆』に掲載されたものです>

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