2007年ドラフトの高校生ビッグ3といえば、中田翔(大阪桐蔭―北海道日本ハム)、佐藤由規(仙台育英―東京ヤクルト)、そしてこれから紹介する唐川侑己(成田―千葉ロッテ)の3人である。

 今年3月31日、北京五輪で金メダルを目指す星野ジャパンはスタッフ会議を開き、代表の第1次候補77人を選出した。
 ビッグ3のうち中田と由規は77人の中に入っていたが、唐川の名前はなかった。これでは「スタッフの目は節穴だった」と言われても仕方あるまい。
 中田と由規がまだ2軍でくすぶっているのに対し、唐川は今や押しも押されもしない千葉ロッテのローテーション投手だ。

 5月22日現在、4試合に登板して3勝0敗、防御率2・83。20日の巨人戦で勝ち投手になっていれば、デビューから先発4戦4勝となり、これは高卒ルーキーとしては2リーグ制以降初めてだったという。
 特筆すべきは制球力の良さだ。28イニング3分の2を投げて、四球はわずかに1。コントロールが安定しているため、安心して見ていられる。

 どんな大物でも、ストライクをとるために四苦八苦するのが高卒ルーキーである。ルーキーの年に16勝(5敗)を挙げた松坂大輔(現レッドソックス)も時折、“逆球”を投げるなど、コントロールにはバラつきがあった。
ところがこの唐川、私が見るところ巨人戦以外の3試合は、捕手が構えたところに10球のうち9球は正確におさまっていた。こんな精密機械のようなルーキー、近年では見たことがない。

 コントロールの話で思い出したのが、元広島の213勝投手・北別府学だ。バッテリーを組んでいた達川光男から、こんな話を聞いたことがある。
「ボール半個分、出し入れするピッチャーはおったけど、北別府は縫い目ひとつで勝負していたね。大げさではなく一度構えたら、もうミットを動かすことがなかった。ギリギリいっぱいのストライクを審判に“ボール”とコールされると、次も寸分違わず、そこにボールを投げ込んでましたよ」
 その北別府でもローテーション入りするのはプロ入り2年目のシーズンからだ。それを考えると唐川の成熟ぶりは際立っている。

 181センチ、76キロ。体型からしてピッチャーらしいピッチャーである。フォームに力感は感じないが、腕が振れているため打者の手元でボールがビュッと伸びている。ストレートは140キロ前後だが、見た目以上に打ちにくいのではないか。
 加えて言えば、彼はどんな球種も同じ腕の振りでリリースすることができる。北海道日本ハムのダルビッシュ有もそうだが、打者は容易に的を絞ることができないだろう。

 スターのメジャーリーグ流出が相次ぎ、空洞化が懸念されるプロ野球だが、唐川のようなホープが誕生するのだから、どうして日本野球の土壌はまだまだ豊穣である。

<この原稿は2008年6月8日号『サンデー毎日』に掲載されたものです>

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