今月は富山サンダーバーズにとっては苦しい戦いが続きました。6日の福井ミラクルエレファンツ戦から19日の群馬ダイヤモンドペガサス戦まで、球団史上ワーストの6連敗。しかも、全て2ケタ安打を打たれての敗戦でした。その間、チームの雰囲気がよくなかったことは言うまでもありません。
 勝てない要因の一つには、リーグ全体のレベルが上がってきていることが挙げられます。他球団の投手陣を見ても、主力投手が安定したピッチングをし、しっかりと試合をつくっています。野球というのは、レベルが上がれば上がるほど、そう易々と点数を取ることができなくなります。守りが大事だと言われる所以はそこにあります。

 今季は接戦が多く、46試合中、2点差以内のゲームが24試合もあります。こうした接戦に勝つためには、精神的タフさが何より重要です。しかし、富山にはまだまだ精神的強さが不足していると言わざるを得ません。

 強力打線が売り物だった昨季は、それでも勝つことができました。相手に取られても、それ以上を味方が取ってくれいたからです。投手陣は、打線に助けられていた部分が大きかったと思います。

 ところが、昨季打点王に輝いた井野口祐介(桐生商高−平成国際大)が地元の群馬に移籍。加えて、技術的なことはもちろん、精神的にも打線の支柱だった宮地克彦(福岡ソフトバンク2軍育成担当)が抜け、昨季のような破壊力は影を潜めてしまいました。そのことも勝てない要因となっているのでしょう。

 さて、投手陣の現状はというと、そう悪い状態ではありません。昨季のチーム防御率は4.21でしたが、現在は3.83。さらに奪三振数はリーグ最多の98を数えます。そして最も評価したいのが昨季一番の課題だった四球数です。現在はリーグ最少の27にとどめられています。

 実はオープン戦では四球が多く、それが失点につながるケースが多くありました。しかし、開幕前に「打たれてもいい。でも、勝負しなくちゃ、何も始まらないんだぞ」と口を酸っぱくして言ってきたことが、実を結んでいるようですね。私は打たれてしまう分にはいいと思っています。それはまだ打ち取るだけの技術がないということですから、どうすれば次は抑えられるだろう、と考えて修正すればいい。しかし、四球で逃げていては勝負になりませんし、そこから進歩は生まれません。

 とはいえ、プロですから結果を残していかなければなりません。現在の課題は、リーグ最多の被安打数を減らすこと。そのためには個人の技術を引き上げていかなければなりません。その一つとして絶対的な武器をもつことが重要となってきます。「この球なら絶対に抑えられる」。そういった自信を持って投げられるものがないと今後、NPBを目指すうえでも苦しいでしょうからね。

 開幕前に先発の柱として考えていたのは、昨季、チーム一の勝ち星(9勝6敗)を挙げた小園司(東灘高−阪南大)でした。小園は昨秋にヒジを痛めて、戦線離脱した時期がありました。春先はよかったのですが、キャンプに入るとヒジの痛みが再発してしまい、現在は目下、リハビリ中です。完治するにはもうしばらくかかりそうですが、遠投も始められていますから、速ければ1カ月以内には復帰できるかもしれません。

 その小園に代わって主力として頑張ってくれているのが、四国アイランドリーグ(現、四国・九州アイランドリーグ)の愛媛マンダリンパイレーツから移籍してきた小山内大和(土岐高−金沢総合科学専門学校−宮城建設)と木谷智朗(関東第一高−東京情報大)の2人です。

 2人を初めて見た時から、「即戦力として使えるな」と感じ、先発の一角にという構想が練られていたほど、高い素質をもったピッチャーです。特に小山内は、リーグでもトップクラスの技術をもった投手です。現在、チーム一の3勝(1敗)を挙げ、期待通り、エース級の活躍をしてくれています。

 その小山内も、ここのところ得意のストレートにキレがなくなってきているようです。17日の信濃グランセローズ戦では4点を失い、8回途中で降板。初の黒星を喫しました。本人も「球が走らなくなってきている」と感じていたようです。

 しかし、小山内はしっかりと自分のスタイルをもっているピッチャーです。「どうすれば元のキレを戻すことができるのか」「抑えるためには、何が必要なのか」を考え、自分で修正する力があります。23日の福井戦では変化球を投げる際に下がる右ヒジのクセを自ら発見し、修正したようです。その結果、8回を3安打1失点で連敗を止め、チームに7試合ぶりの勝利をもたらしました。このように、エースとしての役割をきちんと果たしてくれています。

 一方、木谷は188センチの長身から投げ下ろす140キロ台のストレートとカーブ、スライダー、そして移籍後、習得しつつあるフォークを投げ分けます。18日の信濃戦では3回8安打8失点と大炎上しましたが、それまではチームトップの防御率1.80をマークしていました。今後も小山内とともに、先発の2本柱として頑張って欲しいと思います。

 さて、昨季は小園に次ぐ7勝(5敗)を挙げた大瀧紀彦(出雲北陵高−広島国際学院大)ですが、今季は4試合に登板したものの0勝3敗と勝ち星に恵まれていません。決して調子が悪いというわけではありません。毎試合、5回以上は投げていてゲームメイクはできています。しかし、打線の援護を待てずに終盤に失点を重ねてしまうのです。

 ただ、ボールの勢いやキレといったものは昨季とはほとんど変わっていません。投手にとって最も自信となるのは、やはり勝ち星。大瀧も1勝さえすれば、どんどん波に乗っていくでしょう。それまで気持ちが切れないように、しっかりとサポートしていきたいと思っています。
 

横田久則(よこた・ひさのり)プロフィール>:富山サンダーバーズコーチ
1967年9月8日、和歌山県出身。那賀高からドラフト6位で指名を受けて1986年、西武に入団した。その後、ロッテ、阪神へと移籍。02年オフに阪神から戦力外通告を受けるも、台湾の兄弟エレファンツに入団した。2年目には5勝を挙げる活躍を見せたが、肩の故障などに苦しみ、06年限りで引退を決意。07年より富山サンダーバーズのコーチに就任した。


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