大きな壁を乗り越えてこそ見える成長 〜伊予銀行男子テニス部〜
「今年こそ2度目の日本リーグ決勝トーナメント進出!」を最終目標に掲げ、仕事と両立させながら日々、トレーニングを続ける伊予銀行男子テニス部。今年も個々のレベルアップを図ろうと、全国の大会を転戦している。
シーズンが本格的にスタートして約2カ月。現在のチーム状況について、元キャプテンで現在はコーチ的役割も果たしている湯地和愛選手に訊いた。
(写真:チームの精神的支柱となっている湯地選手)
5月17、18日には第63回国民体育大会愛媛県予選が開催され、伊予銀行からは横井晃一監督と湯地、萩森友寛、植木竜太郎、小川冬樹の4選手が出場した。4ブロックに分かれてのトーナメント戦の結果、決勝リーグに進出したのは横井監督、植木、小川の両選手、そして松山大学4年の近藤真司選手だった。
その4人で行なわれたリーグ戦の結果、国体への出場権を獲得したのは3戦全勝の植木選手と2勝1敗の成績を挙げた近藤選手の2人。伊予銀行以外の選手が愛媛県代表として出場するのはきわめて稀なこと。ここ最近では萩森選手が甲南大学4年時に出場した2004年くらいだという。
実は第1シードで優勝候補の筆頭に挙げられていたキャプテンの日下部聡選手がアオノオープン(5月12〜17日)で左太腿裏の肉離れを起こしてしまい、出場できなかったのだ。日下部選手のケガが完治するには1カ月以上かかる見込みで、現在は目下、リハビリ中である。キャプテン不在はチームにとっても大きな痛手。早期回復が待たれる。
昨年、植木選手とともに国体に出場した萩森友寛選手は、2回戦で敗退。その相手が近藤選手だった。シングルスのJTAランキングは萩森選手が91位。近藤選手は747位。普段なら、決して負ける相手ではない。
(写真:萩森選手の課題はメンタル強化)
湯地選手は今回の萩森選手の敗退について次のように語った。
「挑戦する側と挑戦される側という点で、萩森には絶対に勝たなくてはいけないというプレッシャーがあったと思うんです。そのために積極的に攻めきれず、守りに入ってしまった。それが最大の敗因でした。今後、こうした状況でも勝てるようにするためには、さらなるメンタル面での成長が必要だと思います」
萩森選手復活のカギは技術的なことではなく“気持ち”にありそうだ。この壁を乗り越えたとき、またワンランク上のテニスが見えてくるのかもしれない。
今年4月に入行した小川選手は見事、国体予選において決勝リーグ進出を決めた。しかし、リーグ戦では横井監督には勝ったものの、植木選手と近藤選手に敗戦。国体出場の切符を勝ち取ることはできなかった。
「今大会で一番痛かったのは、新人の小川がタイブレークの末、近藤選手に負けてしまったことでした。小川は神戸学院時代には関西学生選手権で優勝し、日本学生ランキング6位に入ったほどのプレーヤー。実力的には小川の方が数段上なんです。
敗因は冬場から社会人になる時期にかけての調整やトレーニングが十分でなかったからに他なりません。今後、日々の練習や試合を重ねることで本来の力を発揮していってほしいですね」(湯地選手)
試合後、小川選手は人目もはばからずに号泣したという。この負けず嫌いな性格が、小川選手の最大の武器だ。試合中も、体は動けていないながらも、勝利への執念を最後までなくさなかったという。チームにとっても心強い期待のホープだ。
勝敗の決め手はメンタルにあり
現在、チームの中で最も好調なのが入行2年目の植木選手だ。4月に行なわれた京都オープンではシングルスおよび萩森選手と組んだダブルスでW優勝。国体予選でも危なげなく勝ち進み、見事初優勝を果たした。と同時に、全日本選手権の予選出場権をも獲得した。
学生チャンピオンに輝いたこともある植木選手なら、当然の成績なのかもしれない。だが、昨年はベスト4の壁を破ることができなかった。ではなぜ今、これほどまでに好調なのか。その理由を植木選手は次のように述べた。
「精神的な部分が大きいと思います。昨年までは少しでもうまくいかないと沈んでしまって、そこから立て直すことができませんでした。でも、今は『たとえこの試合に負けたとしても、次にいかせばいい』と、いい意味でプレッシャーを感じなくなりました。そのために、ミスを恐れずに積極的なプレーができるようになったんだと思います」
植木選手のメンタル面を強くさせたのは、国体と日本リーグだったという。萩森選手と臨んだ国体の時期、植木選手は思う存分テニスをやっていた学生の頃とは違う生活環境にとまどっていた。それがプレーにも影響し、思うようなプレーができていなかった。しかし、横井監督に気持ちを切り替えられていないことをズバリ指摘されたことで、改めてメンタルの問題が調子の良し悪しに表れることを認識した。
(写真:2年目を迎え、著しい成長を見せる植木選手)
そしてチーム一丸となって臨んだ日本リーグ戦で、植木選手は監督やコーチに支えられ、プロ選手に勝つほどの好成績を残した。それは、ミスをして普段ならズルズルといってしまう場面でも、ベンチや応援席からの声援で気持ちを切り替えられたからに他ならない。現在のメンタル面の強さは、これがきっかけとなったのである。
植木選手といえば、試合中、誰よりも大きな声で雄たけびをあげ、そして誰よりも大きくガッツポーズをする。その姿はまさに“戦士”そのものだ。だが、声もジェスチャーも、本人に言わせれば、精神的な弱さを隠すための防御なのだという。
「僕にはテニスのセンスはないんです。努力と気持ちだけでここまでやってきた。でも、勝てる試合を落としたりと、まだまだメンタルは弱い。どんな試合も勝敗は気持ちの強さで決まります、今後は気持ちが乗っていない時に、どう自分自身を持ち上げていくかが課題ですね」
個人の目標は、昨年出場することができなかった全日本選手権シングルスでベスト16以上の成績を挙げること。そしてJTAランキングではトップ50入りを狙っている。だが、湯地選手は彼ならその上を狙えると断言する。
「もともとトップレベルの実力をもっている選手。社会人としての生活にも慣れ、テニスに集中できていますから、今後はさらに活躍してくれるでしょう。ランキング50入りは当然。技術的にはトップ30も期待できる選手です。あとはどれだけスタミナとメンタルを鍛えていけるかでしょうね」
将来のエース候補は着実に成長しているようだ。
さて、湯地選手自身の調子はどうなのか。チーム最年長となり、現在、練習ではコーチ的役割も果たしている。それだけに、プレーヤーとしてのモチベーションが気になるところだ。
「おそらく、年齢的な問題から選手として日本リーグに出場するのは今シーズンで最後になると思います。ですから今年1年、やれることはやりきろうという気持ちです。
ただ、半分は指導者的立場からチームを見ていることは確かです。選手はそれぞれ個性があり、考え方も違います。加えて仕事や研修などで忙しく、各自、日々の行動パターンが異なります。毎日のように顔を合わせていれば、誰が調子を落としているのか、何を悩んでいるのかなど、互いを理解し合いやすい。しかし、日下部がケガで練習に出られないことも重なって、現在はなかなか全員そろっての練習をすることができていまません。
そういった中で、どうチームを一つにまとめるのか。それも私の仕事の一つだと考えています」
伊予銀行テニス部全員の目標はただ一つ。「日本リーグ決勝トーナメント進出」だ。果たして12月の開幕時にチームはどのように変貌を遂げているのか。今後の動向に注目していきたい。
シーズンが本格的にスタートして約2カ月。現在のチーム状況について、元キャプテンで現在はコーチ的役割も果たしている湯地和愛選手に訊いた。
(写真:チームの精神的支柱となっている湯地選手)
5月17、18日には第63回国民体育大会愛媛県予選が開催され、伊予銀行からは横井晃一監督と湯地、萩森友寛、植木竜太郎、小川冬樹の4選手が出場した。4ブロックに分かれてのトーナメント戦の結果、決勝リーグに進出したのは横井監督、植木、小川の両選手、そして松山大学4年の近藤真司選手だった。
その4人で行なわれたリーグ戦の結果、国体への出場権を獲得したのは3戦全勝の植木選手と2勝1敗の成績を挙げた近藤選手の2人。伊予銀行以外の選手が愛媛県代表として出場するのはきわめて稀なこと。ここ最近では萩森選手が甲南大学4年時に出場した2004年くらいだという。
実は第1シードで優勝候補の筆頭に挙げられていたキャプテンの日下部聡選手がアオノオープン(5月12〜17日)で左太腿裏の肉離れを起こしてしまい、出場できなかったのだ。日下部選手のケガが完治するには1カ月以上かかる見込みで、現在は目下、リハビリ中である。キャプテン不在はチームにとっても大きな痛手。早期回復が待たれる。
昨年、植木選手とともに国体に出場した萩森友寛選手は、2回戦で敗退。その相手が近藤選手だった。シングルスのJTAランキングは萩森選手が91位。近藤選手は747位。普段なら、決して負ける相手ではない。
(写真:萩森選手の課題はメンタル強化)
湯地選手は今回の萩森選手の敗退について次のように語った。
「挑戦する側と挑戦される側という点で、萩森には絶対に勝たなくてはいけないというプレッシャーがあったと思うんです。そのために積極的に攻めきれず、守りに入ってしまった。それが最大の敗因でした。今後、こうした状況でも勝てるようにするためには、さらなるメンタル面での成長が必要だと思います」
萩森選手復活のカギは技術的なことではなく“気持ち”にありそうだ。この壁を乗り越えたとき、またワンランク上のテニスが見えてくるのかもしれない。
今年4月に入行した小川選手は見事、国体予選において決勝リーグ進出を決めた。しかし、リーグ戦では横井監督には勝ったものの、植木選手と近藤選手に敗戦。国体出場の切符を勝ち取ることはできなかった。
「今大会で一番痛かったのは、新人の小川がタイブレークの末、近藤選手に負けてしまったことでした。小川は神戸学院時代には関西学生選手権で優勝し、日本学生ランキング6位に入ったほどのプレーヤー。実力的には小川の方が数段上なんです。
敗因は冬場から社会人になる時期にかけての調整やトレーニングが十分でなかったからに他なりません。今後、日々の練習や試合を重ねることで本来の力を発揮していってほしいですね」(湯地選手)
試合後、小川選手は人目もはばからずに号泣したという。この負けず嫌いな性格が、小川選手の最大の武器だ。試合中も、体は動けていないながらも、勝利への執念を最後までなくさなかったという。チームにとっても心強い期待のホープだ。
勝敗の決め手はメンタルにあり
現在、チームの中で最も好調なのが入行2年目の植木選手だ。4月に行なわれた京都オープンではシングルスおよび萩森選手と組んだダブルスでW優勝。国体予選でも危なげなく勝ち進み、見事初優勝を果たした。と同時に、全日本選手権の予選出場権をも獲得した。
学生チャンピオンに輝いたこともある植木選手なら、当然の成績なのかもしれない。だが、昨年はベスト4の壁を破ることができなかった。ではなぜ今、これほどまでに好調なのか。その理由を植木選手は次のように述べた。
「精神的な部分が大きいと思います。昨年までは少しでもうまくいかないと沈んでしまって、そこから立て直すことができませんでした。でも、今は『たとえこの試合に負けたとしても、次にいかせばいい』と、いい意味でプレッシャーを感じなくなりました。そのために、ミスを恐れずに積極的なプレーができるようになったんだと思います」
植木選手のメンタル面を強くさせたのは、国体と日本リーグだったという。萩森選手と臨んだ国体の時期、植木選手は思う存分テニスをやっていた学生の頃とは違う生活環境にとまどっていた。それがプレーにも影響し、思うようなプレーができていなかった。しかし、横井監督に気持ちを切り替えられていないことをズバリ指摘されたことで、改めてメンタルの問題が調子の良し悪しに表れることを認識した。
(写真:2年目を迎え、著しい成長を見せる植木選手)
そしてチーム一丸となって臨んだ日本リーグ戦で、植木選手は監督やコーチに支えられ、プロ選手に勝つほどの好成績を残した。それは、ミスをして普段ならズルズルといってしまう場面でも、ベンチや応援席からの声援で気持ちを切り替えられたからに他ならない。現在のメンタル面の強さは、これがきっかけとなったのである。
植木選手といえば、試合中、誰よりも大きな声で雄たけびをあげ、そして誰よりも大きくガッツポーズをする。その姿はまさに“戦士”そのものだ。だが、声もジェスチャーも、本人に言わせれば、精神的な弱さを隠すための防御なのだという。
「僕にはテニスのセンスはないんです。努力と気持ちだけでここまでやってきた。でも、勝てる試合を落としたりと、まだまだメンタルは弱い。どんな試合も勝敗は気持ちの強さで決まります、今後は気持ちが乗っていない時に、どう自分自身を持ち上げていくかが課題ですね」
個人の目標は、昨年出場することができなかった全日本選手権シングルスでベスト16以上の成績を挙げること。そしてJTAランキングではトップ50入りを狙っている。だが、湯地選手は彼ならその上を狙えると断言する。
「もともとトップレベルの実力をもっている選手。社会人としての生活にも慣れ、テニスに集中できていますから、今後はさらに活躍してくれるでしょう。ランキング50入りは当然。技術的にはトップ30も期待できる選手です。あとはどれだけスタミナとメンタルを鍛えていけるかでしょうね」
将来のエース候補は着実に成長しているようだ。
さて、湯地選手自身の調子はどうなのか。チーム最年長となり、現在、練習ではコーチ的役割も果たしている。それだけに、プレーヤーとしてのモチベーションが気になるところだ。
「おそらく、年齢的な問題から選手として日本リーグに出場するのは今シーズンで最後になると思います。ですから今年1年、やれることはやりきろうという気持ちです。
ただ、半分は指導者的立場からチームを見ていることは確かです。選手はそれぞれ個性があり、考え方も違います。加えて仕事や研修などで忙しく、各自、日々の行動パターンが異なります。毎日のように顔を合わせていれば、誰が調子を落としているのか、何を悩んでいるのかなど、互いを理解し合いやすい。しかし、日下部がケガで練習に出られないことも重なって、現在はなかなか全員そろっての練習をすることができていまません。
そういった中で、どうチームを一つにまとめるのか。それも私の仕事の一つだと考えています」
伊予銀行テニス部全員の目標はただ一つ。「日本リーグ決勝トーナメント進出」だ。果たして12月の開幕時にチームはどのように変貌を遂げているのか。今後の動向に注目していきたい。