4月25日、日本女子ソフトボールリーグ2部リーグが開幕した。伊予銀行女子ソフトボール部は現在、9試合を終えて8勝1敗。同じく8勝1敗の松下電工・津と同率1位の座をキープして前半戦を終えた。
 もちろん油断は禁物だが、3年ぶりの1部復帰への確かな手応えをつかみつつある。前半戦の勝因、そして昨季との違いはどこにあるのか。大國香奈子監督に前半戦を振り返ってもらった。

「今季は絶対に白星スタートをしていい流れをつくりたい」
 リーグ戦開幕直前、大國監督はそう言って初戦の重要性を語った。だが、一昨年、昨年に続いて伊予銀行は開幕戦を白星で飾ることはできなかった。相手は昨季、1点差に泣いたNECアクセステクニカだった。6回を終えて1−3。2点リードされていたが、大國監督は「まだ逆転可能」とにらんでいた。

 この日、開幕投手を務めたエースの坂田那巳子投手が最終回、連続四球などで2死満塁のピンチを招いた。打席に迎えたのはパンチ力のある4番打者。坂田投手は2球続けてストレートを投じ、ファウルを打たせて追い込んだ。3球目のチェンジアップを見逃され、ボールカウントは2−1となる。

 ここで新人捕手の藤原未来選手が内角ストレートのサインを出した。これに坂田投手もうなづき、要求通りの完璧なボールを投げる。ところが、4番打者はそれをものの見事に打ち返し、満塁ホームランを放った。差は一気に6点に広がり、結果的に試合を決定づける一打となった。

 このバッテリー間の配球について、大國監督は次のように述べた。
「ゲーム中盤でクリーンアップにはチェンジアップを3球続けてもいいと指示していたんです。満塁の場面、しかも相手は4番ですから、最も警戒しなければならないのは長打です。内野ゴロを抜かれたり、四球押し出しでも失うのは1、2点。それならまだ逆転の可能性はありますから。しかし、彼女らは点差をこれ以上広げてはいけないと考え、内角ストレートで外野フライに仕留めようと思ったのでしょう」

 その日はホームからレフト方向に強い風が吹いていた。2回表には7番打者のレフトフライかと思われた打球が風に乗ってホームランになっていた。この風も計算に入れておかなければならなかった。

 2年連続1点差での黒星スタート。だが、昨季の敗戦とは全く違う、と大國監督は言う。
「昨季の開幕戦(平林金属戦)は延長戦でのサヨナラ負け。でも、今回は満塁ホームランを打たれて6点差をつけられた後、打者一巡の猛攻で5点を奪って1点差まで詰め寄る粘りを見せてくれました。だから、敗戦の嫌なムードよりも、勢いの方が勝っていました」

 2年前の教訓いかした好プレー

 その言葉通り、第2戦以降、伊予銀行は怒涛の8連勝を飾った。なかでも大きかったのは昨季1部リーグに所属していた靜甲から勝利を収めたことだ。
 実は靜甲とは偶然にも宿舎が一緒だったため、試合前日から2チームの間には緊張感が漂っていたという。

「靜甲は大卒のベテラン選手が多く、口達者なところがあるんです。だから、若いうちのチームが気合い負けしないかどうかが心配でした。でも、宿舎が一緒だったこともあって、いつも以上に選手たちはピリピリしていました。それがよかったのだと思います」(大國監督)

 開始直後、伊予銀行は相手のミスで2点を奪った。さらにキャプテン川野真代選手のタイムリー、仙波優菜選手の犠飛で2点を追加。伊予銀行は幸先よく、初回に4点をリードした。しかしその後、同点に追いつかれ、試合は延長戦へと突入する。

 迎えた8回表、伊予銀行は1死三塁のチャンスを得た。ここで大國監督は外山裕美子選手に代えて明見茉紀選手を代打に送った。
「外山もバットが振れていましたし、調子は悪くありませんでした。しかし、ゴロが多かった。相手の内野は守備が巧く、しかも前進守備をしいていたので、思い切って明見を代打に送りました。ポテンでもいいから、と思っていたのですが……」
 果たして監督の狙い通り、明見選手の打球はレフト前にポトリと落ちるポテンヒットとなった。三塁ランナーの藤原選手が生還し、伊予銀行が勝ち越した。

 その裏、今度は靜甲が1死三塁の場面を迎え、代打を送った。代わった打者は前節まで3割5分をマークしていた好打者。それだけに誰もが強振すると信じて疑わなかった。だが、大國監督は相手ベンチからサインが出ているのを見逃さなかった。
「どうも何かをしかける雰囲気がありました。でも、3割以上をマークしているバッターに、まさかスクイズはないだろうと思って、選手には特にサインを出しませんでした」

 だが、スクイズがくることを確信し、警戒していた選手がいた。サードの古賀郁美選手だ。古賀選手はその時、2年前に同じ岡山県新見市新見ピオーネ球場で行なわれた湘南ベルマーレ戦を思い出していた。

「一昨年のベルマーレ戦は古賀が初めて先発サードとして出場した試合だったんです。1−1で迎えた最終回、1死一、三塁の場面で相手が初球スクイズをしてきました。結局、その1点が決勝点となって負けてしまったんです。まだ経験の浅かった古賀はスクイズを警戒できていなかったんでしょう。それがよっぽど悔しかったのか、強く印象に残っていたようで、靜甲戦でもスクイズの雰囲気を感じていたというんです」

 古賀選手の予想はズバリ的中した。靜甲は初球スクイズをしかけてきたのだ。古賀選手は見事なスタートダッシュを決め、ホームで三塁ランナーを刺した。まさに経験が生かされたファインプレーだった。その後、坂田投手が無失点に抑え、伊予銀行は5−4で競り勝った。

 この1勝はチームにとっても大きかった。昨季1部に所属していたチームと互角に渡り合い、しかも勝利に結びつけたことは、選手たちの自信となったに違いない。その後の5試合が全て4点差以上をつけての快勝という結果からも明らかだ。

 前半戦、8勝1敗という好成績を挙げた要因について、大國監督は投手と守備の2つを挙げた。
「昨季はエースの坂田がケガで抜け、投手の数が不足していました。ですから、やりくりするのに苦労したんです。でも、今季は頭数が揃っているので、先発と抑えの役割を明確にすることができています。これは新人キャッチャーの藤原にとっても大きい。配球を考えやすいでしょうからね。

 それからバックのミスがほとんどないことも勝ちにつながっていると思います。昨季は自分たちのミスから崩れるケースが多々あったのですが、今季、エラーは9試合でわずか1つ。これは18チーム中、最少だと思います。リーグ前に1部のシオノギ製薬さんやルネサス高崎さんとの練習試合やマドンナカップなど、どこよりも1部チームとやる機会を多くもてました。そこでトップチームの打球の速さに対応しようとした結果、自然と守備レベルが上がったのだと思います」

 ほんの少し優勝への光が見えてきた伊予銀行だが、もちろんまだ楽観視することはできない。後半戦の前には国民体育大会予選、最中には国体本戦と全日本総合選手権が控えるなど、もう一山もふた山も乗り越えなければならないのだ。

「日本リーグ戦では黄色いボールが使用されていますが、国体や総合選手権では白いボールなんです。ピッチャーはもちろんですが、野手にとってもバウンドの仕方が違うので、厄介なんですよ。特に坂田と清水(美聡)はチェンジアップを多用するので、キャッチャーの藤原はワンバウンドのボールへの捕球には苦労するでしょう。今後はどちらのボールにも対応できるようにしていかなければなりません」

 技術も勢いも十分の伊予銀行。3年ぶりの1部昇格を目指した同行の戦いはこれからが正念場となりそうだ。


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