第3戦までもつれたプレーオフ・ファイナルは富士通レッドウェーブに軍配が上がった。その富士通に敗れ、準優勝のデンソーアイリスは今季大きなインパクトを残したチームと言えよう。皇后杯全日本選手権ではENEOSサンフラワーズの連覇をストップし、悲願の初優勝を成し遂げた。

 
 ファイナル第3戦後の会見で、ヴラディミール・ヴクサノヴィッチHCは「あともう少しで手が届きそうだったが届かなかった。ハードワークをし続けた選手とスタッフに感謝したい」と述べた。このチームの未来について、大黒柱・髙田真希はこう話した。
「6年ぶりのファイナル。その試合を経験している選手は多くない。この負けを次に繋げていくことが重要。ファイナルに出て、勝つために何が必要かを肌で感じることが大事だと思っています。こういう経験してきたからこそ成長できたと言える今後にしていきたい」
 
 このプレーオフで印象に残ったのが馬瓜エブリンと木村亜美の存在感だ。日本代表としてパリオリンピック世界最終予選でも活躍した馬瓜エブリンは、代表同様タフショットをバシバシ決めていった。ファイナル3戦の1試合平均得点は同MVP宮澤夕貴(富士通)の19.67点 を上回る20.33点をマークした。そして馬エブリンは好プレーを見せるたびにコート上で吠え、チームを鼓舞する姿が目立った。
 
 ムードメーカーはコート内のみならず外でもチームを明るく照らし続けた。赤穂ひまわりがセミファイナル第3戦後の記者会見で、出だしでシュートミスしたことについて言及された際、「やらかしたなと思いましたが、あまり引きずることなかった」と言うと、すぐさま「今年のデンソーは周りが引きずらさせませんから」と言い切った。
 
 その太陽のような明るさはチームに伝播する。実質2季目の木村も馬瓜エブリンの存在について「ダンさん(エブリン)が入ったことでチームの雰囲気が明るくなりました。我慢する場面でも声を出してくれて、それに呼応してみんなが声を出していく。チーム全員が一体となることができた。ダンさんには感謝しています」と語った。木村自身、シーズン中、落ち込んだ時に馬瓜エブリンから声を掛けてもらったことで背中を押されたという。
 
 その木村はPGとしてレギュラーシーズン26試合とプレーオフ5試合全てでスターターとして起用された。レギュラーシーズンでは1試合平均7.04得点、同4.69アシストは昨季から数字を伸ばした。ファイナル第3戦でも10得点9アシスト3スティールを記録。本人は「周りの先輩がいてくださるからこそ自分の得点やアシストが増えている」と謙遜したが、髙田も「木村の活躍なくしてファイナルの舞台には立てなかった。ハッスルしてくれて、個性的なメンバーがいる中でもまとめてくれた」と成長を認めていた。
 
 リーグ屈指のムードメーカーと成長著しい若手が灯すデンソーの未来は明るいのか。「悔しい気持ちを身に付けていけば、チャンスをものにできると信じてやっていくしかない。成長するには向上心が必要。自分がどうなりたいのか、それをしっかり持って進んでいけばまたチャンスは必ずやってくる。それを次にモノにしたいと思います」と髙田が言えば、キャプテンの赤穂さくらは「みんな頑張り屋さんなので、この悔しい思いと、ファイナルに立った経験をしっかり成長材料に戻ってこれるのかなと思っています」と続けた。
 
 皇后杯とWリーグの2大会でファイナルへ進んだデンソー。他チームからのマークもさらに厳しくなってくるだろう。髙田が言うように今季、手にした収穫と課題をきっちり来季に繋げられるかがカギを握るだろう。栄光への近道はないのである。
 
(文/杉浦泰介、写真/©Wリーグ)