広島カープには、古くから「3文字の姓のピッチャーは大成する」との言い伝えがある。身長1メートル67の小柄ながら通算197勝をあげ「小さな大投手」と呼ばれた長谷川良平(故人)。2リーグ制以降、3度のノーヒッター(うち1度は完全試合)を達成した唯一の投手で、75年の初優勝の立役者でもある外木場義郎。沖縄出身初のプロ野球選手で巨人キラーの異名をとった安仁屋宗八。球団史上初の200勝投手で、沢村賞に2度も輝いた北別府学。近年では史上6人目となる100勝100Sを達成した佐々岡真司。

 長谷川を別にすると、外木場、安仁屋、北別府、佐々岡、いずれも全国的に珍しい姓である。外木場と北別府は鹿児島、佐々岡は島根、安仁屋はもちろん沖縄に特有の姓である。カープは地方出身者に支えられた球団であることが以上の例からも裏付けられる。選手の姓を覚えるだけで球団の歴史を知ることができる。

 もし、外木場の登録名がヨシロー、北別府のそれがマナブだったとしたら、そうはいかない。どこで造られたかわからないラベルのない焼酎を飲むような味気なさだ。

 翻って最近のプロ野球、名前のみを登録名に使う選手が多く、どこの出身かさっぱり見当が付かない。埼玉西武の銀仁朗なんて、どうせファンや同僚からは「ギンジロー」と呼ばれるのだから登録名は堂々と「炭谷銀仁朗」でよかったのではないか。甲子園を沸かせた東京ヤクルトの佐藤由規の登録名は1年目から由規だ。イチローだってプロ入り以来、2年間は本名の鈴木一朗でプレーしているのだ。佐藤という姓が全国区だから名前で勝負したかったのだろうが、フルネームを覚えてもらってからでも遅くはなかったと思う。

 そこで各球団に提案したい。名前だけの登録はチームに同姓の選手がいる場合だけと規定したらどうか。それも最低3年間のフルネーム使用は義務付けたい。

 子供の頃、父親と広島市民球場によく出かけた。試合前、オーダーが発表されると、姓を見ながら、この選手は九州の出身だ、この選手は四国だな、この選手のルーツはおそらく瀬戸内の村上水軍じゃろ、などと説明してくれた。それを聞くのが好きだった。名字の来歴をたどるのもプロ野球の楽しみのひとつである。

<この原稿は08年6月18日付『スポーツニッポン』に掲載されています>

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