日本発のプロダンスリーグ「D.LEAGUE」の23-24シーズンは、残すところROUND.14とチャンピオンシップ(CS)のみとなった。既にCS進出の望みは絶たれているが、独自の世界観をショーケースで披露し、抜群の存在感を示しているのが、LIFULL ALT-RHYTHM(ライフル アルトリズム)。そのチームにおいて、思わず目に留まったのがKarimこと荒岡カリムというダンサーである。

 

 徳島県出身の22歳(2024年5月6日時点)はHIPHOPを得意とする。なぜ彼に目が留まったかというと、ダンスバトルでも結果を残してきたスキルの高さはもちろんのことだが、陰のオーラを感じないからだ。陰と陽の陰の部分は、第一線で活躍するダンサーには大なり小なりあるものだと思われる。時に他を圧倒するような存在感、カリスマ性と言い替えてもいいだろうか。Karimは陽の部分が一際、色濃く映る。だからといってKarimに存在感がないと言うわけではない。むしろ異質な存在として、目に留まるのだ。

 

 それはKarimのダンス観に依るものが大きいのではないかと推測する。他のダンサーに負けないところを尋ねると、「ダンスを楽しむ気持ち。何事も楽しみながらやりたい。作品づくりを含め、D.LEAGUE以外の舞台でも、その空間と空気感を楽しみたいと思って踊っています」と返ってきた。

 その点は自身3季目のD.LEAGUEのここまでを振り返った時にも「いい作品を届けたいというのが根底にあります。もちろん勝ち負けがあるので結果が出なければ悔しいですが、その時のベストを舞台で出せているので、後悔はないです」と語っていたことからも窺える。

 

 リーダーを務める永井直也に、Karimのダンサーとしての魅力を聞いた。

「手足が長く、身体のラインが細い。その美しいラインを持ちつつ、人に幸せを振りまくようなダンスを踊るんです。それがみんなにいい影響をもたらしていると思います。Karimの良さは、これからもどんどん出てくるはず。何より人間力がそのままダンスに表れている。目が常に輝いていて、純粋。誠実に謙虚にいろいろなことに向き合っている。毎回ダンスを楽しむだけでなく人との関わりを楽しむ子なんです。ダンスは呼吸と一緒で、人と何をできるか。彼はそこで生まれるものを大事にしている。ただいろいろな出会い、情報が溢れる中でも、絶対変わらないのが、Karimのピュアで誠実な姿勢ですね」

 

“ありがとう”が溢れるチーム

 

 ALT-RHYTHMがD.LEAGUEに参戦したのは21-22シーズンからで、Karimは当時、dip BATTLES(ディップ バトルズ)に所属していた。

「その時から彼特有の朗らかな雰囲気を持っていた。すごくしゃべりやすい。人と話す時は必ず目を合わしている。またKarimには独特な時間が流れている気がします」(永井直也)。

 

 ALT-RHYTHMはKarimにとって「家のようなもの」という。「帰る場所でもあり、居心地がいい。チームの中にいると温かい気持ちになります。休みの日があると、みんなに会いたくなる」。ダンサーの年齢も上は52歳、下は20歳と幅広い。最年長の森井淳は、Karimの親ほどの年齢だ。

 

 その“家”の中でKarimの立ち位置とは――。再び永井直也の談。

「いろいろな面を持っています。ウチのチームは多種多様なタイプの人の集まり。Karimに末っ子気質な部分はもちろんあります。ムードメーカーにもいろいろなタイプがいると思いますが、彼は空気を朗らかにするピースフルボーイ。それは意図的にやっているというよりかは天性のものな気がします。挨拶をテキトーにすることは全くなく、そこはこの約2年間ずっと変わらない」

 

 チーム名の「ALT-RHYTHM」は、オーナー企業である株式会社LIFULLの社是「Altruism=利他主義」と「Rhythm=リズム」から生まれた造語である。Karimにとって、チームメイトたちはそれを体現している人たちばかり。まず彼がチームに加入して驚いたのが、ALT-RHYTHMに“ありがとう”が溢れていたことだ。「“ありがとう”は挨拶のようなもの」とは永井直也。無意識的にチーム内に流れていた空気感がKarimにも好影響を与えている。

「自分ではあまり意識していなかったことでしたが、改めて一言でも感謝の気持ちを伝えることが大事やなと気付かせてくれました」  

 

 インタビューをしていても、その朗らかな空気感が場を包む。彼は「ありがとうございます」「感謝」という言葉を何度も口にした。永井直也が評する「純粋で誠実」という人物像がしっくりくる。まるで、ひまわりのようなダンサー、Karimがダンスを始めたきっかけとは――。 

 

(第2回につづく) 

 

Karim(かりむ)プロフィール>2001年5月14日、徳島県徳島市出身。本名は荒岡カリム。6歳でダンスを始め、11歳からストリートダンスを学ぶ。のちにダンスバトルの魅力に惹かれ、国内外の大会で結果を残した。2017年には、高校チャンピオンに輝き、同年KOD ASIA CUPで予選を勝ち抜き世界大会に出場した。21-22シーズンからD.LEAGUEに参戦。dip BATTLES(21-22)、LIFULL ALT-RHYTHM(22−23)と2季連続でチャンピオンシップを経験した。HIPHOPを得意とするダンサー。身長173cm。 

 

(文・写真/杉浦泰介)

 


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