はじめまして。今季より信濃グランセローズのプレーイングコーチに就任した辻竜太郎です。僕は生まれは大阪ですが、高校時代の3年間は松商学園で甲子園を目指して汗を流しました。ですから僕にとって長野は、第2の故郷でもあります。その思い出深い地で再び野球をやれる喜び、そして感謝の気持ちを抱きながら現在、チームの優勝、そして自身のNPB復帰を目指しています。
 僕は昨年、東北楽天から戦力外通告を受けました。しかし、自分自身はまだやれるという自信がありましたし、何より「もう一度、NPBの世界に戻りたい」という気持ちが強くありました。そこでわずかな望みを託し、11月の12球団合同トライアウトに臨んだのです。

「うちに来てくれないか」
 グランセローズから初めて電話がかかってきたのは、11月中旬のことでした。その時、僕は1回目のトライアウトに落ち、最後のチャンスとなる2回目に向けてトレーニングに励んでいました。突然の誘いに驚きを隠せませんでしたが、とにかく2回目のトライアウトの結果が出るまではと、返事を保留させてもらったのです。

 残念ながら、2回目のトライアウトでも朗報は届きませんでした。それでも僕は諦めきれず、米国の独立リーグやアジアの球団への移籍など、現役続行の道を模索していました。正直に言えば、その頃の僕は日本の独立リーグには関心を抱いていませんでした。しかし、熱心に声をかけてもらっているグランセローズにもきちんと誠意を見せなければいけないとは思っていたのです。

 聞けば、信濃の三沢今朝治社長は松商学園出身、飯島泰臣副社長は松商学園、明治大学出身というではありませんか。「ぜひ一度、長野に来てほしい」。大先輩から直々に誘いを受けた僕は、とにかくBCリーグとは、グランセローズとはどんなものなのか、を確かめに行くことにしました。

 実際長野に足を運び、NPBにもひけをとらないほど素晴しいオリンピックスタジアムなどを見学させてもらううち、このリーグが自分が抱いていたイメージとは全く違うものだということがわかりました。
 長野駅付近にある「TOiGO」という大型商業スペースには、グランセローズのグッズ販売コーナーが設けられていました。そこではビデオで昨シーズン、選手たちの奮闘ぶりが放映されていたのです。

「草野球に少し毛が生えたレベルだろう」
 今思えば、勘違いもいいところですが、NPB時代にはそんなふうにしか思っていませんでした。しかし、ビデオを観て、それが間違いだということがすぐにわかりました。本気で野球に取り組む選手たちの熱い思いが伝わってきたのです。徐々にBCリーグに対する気持ちが変わっていくのが自分でもわかりました。

 その日の夜、三沢社長や飯島副社長など球団関係者と食事をしました。そこで飯島副社長の野球やグランセローズへの熱い思いを聞いているうちに、「この人たちなら信頼できる。ここでなら思いっきり野球ができる」という気持ちが芽生えてきました。もう、その時にはグランセローズにお世話になることを決心していたのです。

 俊足・強肩の笠井に注目!

 さて現在、グランセローズは10勝14敗3分という成績です。キャンプから選手たちがどれだけ一生懸命練習に取り組んでいるのかを知っている僕にとってこの成績は、「こんなものではない」と歯痒い気持ちでいっぱいです。しかし、シーズンはまだ始まったばかりです。「結果は必ずついてくる」。そう信じて、長い目で見るようにしています。

 チームがなかなか勝てない要因は投打のかみ合いや個々の技術など、さまざまです。そのなかでも大事な場面でのあと1本が出ないことが、最大の悩みどころです。チャンスに打席に立つと皆、かなしばりにあったかのように打てなくなってしまうのです。リーグの成績を見ても、打率、本塁打、盗塁ではベスト10入りしている選手がいるものの、打点では一人もいません。打ちたいという思いが強ければ強いほど、どんどんプレッシャーが大きくなり、体がかたまってしまうのです。

 とはいえ、調子を上げつつある選手もいます。レギュラーのみならず、坂田一万(長崎海星高−成城大)や荻原英夫(佐久長聖高−帝京大)、村上正祐(創造学園高)など、控え選手も結果を残していますから、層の厚さは増す一方です。

 なかでも、今後の活躍が楽しみなのは、3番の笠井達也(塩尻志学館高−金沢星稜大)です。彼は身長175センチながらパンチ力があり、選球眼もいい選手です。加えてリーグ3位の盗塁数(6)を誇る俊足の持ち主。その足をいかした守備範囲の広さは、今すぐNPBでも十分通用するほどです。例えて言うなら新庄剛志さんですね。新庄さんほどの華はありませんが(笑)、守備範囲と肩の強さは匹敵すると思います。

 ただ、送球の正確性はまだまだです。彼ほどの強肩なら8割程度の力で投げれば十分なのですが、思いっきり投げようと余計な力が入り、ボールが大きくそれてしまうことがあるのです。彼自身、まだ自分の身体能力の高さを把握していないのでしょう。練習では徐々に克服しつつありますが、試合になるとやはり力んでしまいます。今後、送球が安定してくれば、素晴しいプレーで観客を魅了してくれることでしょう。

 NPB復帰を目指す僕自身はというと、ようやくいい感じでバットを振れるようになってきました。「必ずやNPBの舞台に戻ってみせる」。その思いを前面に出した精一杯のプレーで結果を残し、自らチームを引っ張っていきたいと思っています。

 これからまだまだ戦いは続きます。プロですから、もちろん勝負には勝たなければいけませんし、選手自身も勝ちたい気持ちは強く持っていると思います。しかし、負けが混んでいる時、苦しい時こそ、元気いっぱいに、がむしゃらにグラウンドで暴れまわってほしい。なぜなら、それこそが次への成長につながるからです。そして、ファンも選手たちのハツラツとした姿を見たくて球場に足を運んできてくれているからです。

 グランセローズの勝利を信じて観に来てくれるファンの期待に応えるためにも、より一層の努力を重ねていきたいと思っていますので、これからも応援よろしくお願いします。

辻竜太郎(つじ・りゅうたろう)プロフィール>:信濃グランセローズプレーイングコーチ
1976年6月8日、大阪府出身。松商学園高校卒業後は明治大学に進学。1年時から主軸を務め、4年時には主将として春季リーグ優勝に貢献した。ヤマハを経て2002年、ドラフト6位でオリックスに入団。04年には3割2分5厘をマークし、将来を嘱望される。しかし、翌年に新規参入の東北楽天に移籍すると、出場機会が減少。07年オフに戦力外通告を受ける。NPB復帰を目指し、今季より信濃グランセローズのプレーイングコーチに就任。現在は主砲としてチームを牽引している。登録名は「竜太郎」。


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