巨人相手に開幕3連勝を飾った時には「ひょっとすると、ひょっとするかも」と思わせたスワローズだが、ここにきて低空飛行を余儀なくされている。6月20日現在、28勝34敗と6つの借金。クライマックスシリーズ出場を果たすためにはもう負けられない。

 野手の中では五輪代表のキャプテンに内定しているベテランの宮本慎也とともに気を吐いているのが、4年目の田中浩康である。
 現在、チームでただひとり全試合出場を続け3割1分7厘の好打率を残している。アダム・リグス、アーロン・ガイエルの両外国人の不振に、青木宣親の故障、戦線離脱が重なった際には3番や5番を任せられた。今や押しも押されもしない燕軍団のニューリーダーである。

 田中は2005年、自由獲得枠で早大からスワローズに入団した。学生時代は六大学史上24人目の100安打を達成している。当初から走功守三拍子揃った即戦力内野手との呼び声が高かった。
 しかしプロの壁は厚かった。1年目はわずか6試合、2年目も75試合の出場にとどまった。真価を発揮し始めたのは昨シーズン。132試合に出場し、打率2割9分5厘をマークした。三塁打8本、犠打51はリーグ最多だった。守備も安定し、セ・リーグのベストナインに選ばれた。

 成長の陰には、ひとりの元名選手との出会いがあった。西鉄ライオンズ時代には「怪童」の異名をとり、現役引退後は打撃のスペシャリストとして若松勉、掛布雅之、ラルフ・ブライアント、石井浩郎、岩村明憲(現レイズ)など数多くのスラッガーを育て上げた中西太氏である。

 会うなり、中西氏は田中に言った。
「アウトローをしっかり打て」
 アウトロー、すなわち外角低目のボールをきっちり打つためには、ボールを引きつけなければならない。そのためにはぜんまいを巻くように内転筋をしぼり、軸足に力を蓄える必要がある――。
 そしてインパクトの瞬間、腰を素早くターンさせ、コンパクトにバットを振り抜くのだ。この練習を中西氏は繰り返し田中に命じた。

 その結果、どうなったか。
「軸足でためて一本足で立つ形が決まりだしたでしょう。ボールを引きつけてシャープに振り抜いた時に、貯めたエネルギーを一気に爆発させる。外のボールをしっかり叩けるようになったのがその証拠ですよ」
 さらに中西氏は続けた。
「話を聞いたら、彼はシーズンオフに城島健司(マリナーズ)と一緒にトレーニングをやっているというんだね。そういう熱心さがうまくなるためには必要なんだ」

 目を引くのは野球に取り組む姿勢ばかりではない。体も屈強で大学時代には左手を骨折しながら試合に出場したことがある。昨シーズン終盤も両太ももがパンク寸前だったが、それでも休まなかった。ガッツも申し分ない。この先、まだまだ伸びる逸材である。

<この原稿は2008年7月6日号『サンデー毎日』に掲載されたものです>

◎バックナンバーはこちらから