「高知県出身初のVプレミアリーグ選手」
 これが長山拓未の目標だ。実現できるかどうか、まだそれほど自信はないという。だが、それはただの謙遜にすぎない。長山が所属する中央大学男子バレーボール部は、全日本大学選手権で最多となる12度の優勝を誇る名門だ。現役4年、主将の福澤達哉は16年ぶりの五輪出場を決めた植田ジャパンのメンバーに選出され、将来は日本のエースとして嘱望されている。そんなレベルの高い中大でも、長山は2年ながら既にレギュラーの座を獲得している。やはり彼の力は本物だと言っていいだろう。
「自分にはこれしかないですね」。長山がそう言ってはばからないのがクイック(速攻)だ。クイックは、打点の高さとスピード、そしてセッターとの呼吸が必要とされる技だ。それらに加えて長山は “キレ”も大事だという。
 理想は早稲田大学4年、主将の徳武正哉だ。徳武は中学、高校と全国優勝を経験し、全日本ジュニアにも選ばれたことのある逸材。早大でも身長188センチながら、1年からセンターのレギュラーポジションを獲得し、活躍している。
「高校時代、早稲田の試合を観て徳武さんのクイックに魅せられていました。“自分もこんなクイックを打ちたいなぁ”と。徳武さんのクイックは、他の選手にはないキレがあるんです」

 だが、同じ関東1部リーグに所属する早大とはライバル関係にある。6月に開催された東日本大学バレーボール選手権大会(東日本インカレ)でも準決勝で対戦し、中大が早大を破っている。ネット越しに見る徳武選手は、もはや長山にとって憧れの存在ではなく、倒さなければならない相手にとって変わっているのだ。

 東日本インカレで決勝進出を果たした中大は、負けはしたものの、昨年の全日本インカレで準優勝の東海大学を相手にフルセットにまで持ち込む善戦を演じた。目指すは12月の全日本インカレでの優勝だ。そのためには、センターの一角を担う長山が果たす役割は大きい。

 現在、長山は前衛からスタートするポジションに置かれている。自ずと、相手のエースが前衛にいるケースが多くなるため、ブロックが重要視される。練習でも多くの時間をブロックに割いているようだ。

「ブロックはサイドに移動するスピードはもちろんですが、手の出し方も大事になってきます。僕は相手がサイド攻撃する際、よくボールを追ってブロックにいってしまうことがあるんです。そうではなく、とにかく手を真っすぐ出すこと。ストレート方向にはもう一枚いるわけですから、内側の自分はクロスを止めるために真っすぐ出す。これをしっかりと身につけたいですね。
 キャプテンの福澤さんにもマンツーマンで教えてもらっています。よく言われるのは重心の使い方。構えている時はどちらでも動けるように重心を置いて、ボールが行った側に足だけではなく、勢いをつけて身体の重心ごともっていくように、と。今、特訓中です」

 現在は名門大学のレギュラーの座に君臨している長山だが、地元を大事に思う気持ちは昔も今も変わってはいない。帰省すれば、真っ先に中学時代の恩師である小笠原健一先生に挨拶に訪れる。そして頼まれれば、母校以外でも高校生の練習に参加し、指導するのだ。

 そんな長山に人一倍期待しているのが小笠原先生だ。
「長山は中学時代、バレーに限らず、勉強も私生活も模範的な生徒でした。中央大学への進学も自分でいろいろと考えて決めたんです。しっかりとした子ですよ。
 大学に入ってからは長山のプレーを見ていないのですが、会う度に成長を感じています。“大人になっているなぁ”と。もちろん、日本のトップであるVリーグにいってもらいたいという気持ちはありますが、バレーだけでなく人として大きくなってほしいと願っています」

 父親もまた同じ思いのようだ。
「成功することよりも、その過程が大事なんじゃないでしょうかね。スポーツを通じて人の苦しみや、人と人とのつながりの重要性を知ってもらいたいなと思っています。
 Vリーグ選手になってくれたら? そりゃ、嬉しいですよ。高知出身でもここまでやれるんだ、と県バレー界の励みにもなるでしょうからね」
 こうした地元から寄せられる期待が、長山の力になっていることは言を俟たない。

「自ら未来を切り拓く」という意味の「拓未」――母親がつけてくれたこの名前を長山は気に入っている。まさしく、彼はこれまで自分の、そして高知バレー界の未来、可能性を切り拓いてきた。
 大学日本一、Vリーグ入団、国内最高峰リーグでの日本一……長山の挑戦はこれからも続く。
 
(おわり)

長山拓未(ながやま・たくみ) プロフィール>
1988年5月17日生まれ。高知県出身。中央大学法学部2年。格闘技一家に生まれるも、2歳年上の姉の影響で小学生からバレーを始める。高知中、高知高では入学直後からレギュラー入りを果たす。高校3年間でインターハイ3度、春高3度出場し、2年時には全国初勝利を挙げる。現在は中央大男子バレーボール部に所属し、レギュラーとして活躍している。得意のプレーはクイック。ポジションはセンターだが、中学、高校時代にはサイドアタッカーの経験もあることから、バックアタックも打つ。196センチ、85キロ。最高到達点335センチ。








(斎藤寿子)
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