日本サッカーの舵取り役は川淵三郎氏から犬飼基昭氏へ――。政治にたとえていえば小泉(純一郎)政権の後に竹中(平蔵)政権が誕生したようなものだ。サッカー関係者へのメッセージは「改革続行」である。

 過日、慰労を兼ねて都内で川淵氏と久しぶりに会食をした。犬飼氏を後継指名した川淵氏が今後のサッカー界のトップに求められる条件として真っ先にあげたのが経営能力。「これから伸びていこうとする分野にどう投資をするか。全体を見渡した事務処理能力があるか。それを考えるとマネジメント経験のある人間じゃないとやっていけない」。

 そして続けた。「僕が彼(犬飼氏)のことを評価しているのは2005年にレッズランドをつくったこと。東証一部上場企業(三菱自動車)の取締役から“自分にはやりたいことがある”と言ってレッズにやってきただけでも大したものなのに、僕がチェアマン時代、長年言い続けてきたJリーグの理念を実現してくれた。しかも彼は“川淵さんが一番喜んでくれると思ってこれを作ったんですよ”と言ってくれたんです。このインパクトは強かった。それからですよ、僕が彼の仕事ぶりに注目し始めたのは…」

 川淵氏と言えば「剛腕」が代名詞だったが犬飼氏も負けず劣らずの「剛腕」である。浦和レッズの社長時代、彼は何をしたか。まず親会社の不祥事をきっかけに損失補填契約を解消し、クラブに独立自尊の精神を植え付けた。さらには第三者割当増資を計画し、地元との密着度をこれまで以上に深めようとした。親会社からの出向で地元には目を向けず、親会社のほうばかり向いている“名ばかり経営者”が多いなか、犬飼氏は「地域密着」の理念に沿って数々の改革を断行した。また教育にも熱心で埼玉県教育委員を2005年から務めている。

 これは以前、犬飼氏と話していて意見が一致したのだが、この国には「学校教育」と「社員教育」はあるが「社会教育」がない。それは多種多様な世代や職業層が集まる地域を基盤としたクラブがこれまでなかったことと無関係ではない。レッズランドはその果実のひとつだが、今後はこうした改革を点から面にしていかなければならない。犬飼新会長の「剛腕」に期待する所以である。

<この原稿は08年7月30日付『スポーツニッポン』に掲載されています>

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