美しき旋律の裏に響く生々しい“エッジ音” ~羽生結弦のDanny Boy~

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 美しい音色が心に響く「Danny Boy」。ここに羽生結弦の優雅な演技が加わるのだから、見ていてつい、呼吸を忘れてしまう。このプログラムは、「羽生結弦notte stellata(ノッテステラータ)2024」で初めて披露され、「Fantasy on Ice 2024」幕張公演、愛知公演でも演じられた。

 

 過去に羽生は「Danny Boy」のコンセプトを、こう説明している。

 

「Danny Boyに込めたコンセプトは希望です。希望の中には、“過去の希望”と“未来に対しての希望”があると思うんです。うれしかったこと、震災前の過去に戻って、手を伸ばして触れてみたいと思うこともある。その逆が未来への希望。未来に対して希望を抱き、明るい未来があるように、と祈りをささげることもありますよね。(このアリーナの)ステージから見て、リンクの左側が過去、真ん中が現在、右側が未来という設定で滑りました」

 

 この曲はゆったりかつシンプルな音の運びのため、羽生が氷上を滑る音も耳に入ってくる。スケート靴の刃が氷上を削る音は、実に生々しい。Danny Boyの時のそれが私には、人々の悲痛な叫び、心の痛みを表しているように聞こえてならない。

 

 羽生はエッジの音を演出に使用した過去がある。「RE_PRAY」で披露された「MEGALOVANIA(メガロバニア)」である。このプログラムの始まりは、音楽がかからない。敢えて、エッジの音を響かせるのだ。

 

 この演出について、2024年1月7日に放送された「独占密着! ドキュメンタリー 羽生結弦RE_PRAY(テレビ朝日系列)」でこう語っていた。

 

「フィギュアスケートって表現している世界が華々しいものが多いので、生々しさみたいなものって感じないことが多いんです。

 だから、エッジの音の迫力みたいなものを感じてもらいたいな、というのがまずひとつ。“いつかやってみたいな”とずっと思っていたんです。MEGALOVANIAという楽曲自体が、ひとりのボスと戦う時に使われる楽曲です。ボスと戦う時に最初、無音で必殺技を繰り出す場面があります。無音なんだけど、SEだけが響く。効果音だけがずっと響いている。そこからMEGALOVANIAが始まり、戦闘が始まっていく。それをエッジの音だけで再現したくて……」

 

 スケート靴の刃が氷を削る音もDanny Boyの一部だとするならば、このプログラムはある意味、MEGALOVANIAの派生系とも言えるのではないか。

 

 生々しいエッジ音に象徴されるさまざまな悲しみを、優しい旋律と羽生の演技が癒し、昇華してくれる。ループジャンプ後に急停止して魅せる仕草と表情、優雅なオープンアクセル、氷上に虹をかけるイナバウアーからは、安寧を祈る思いが伝わってくる。Danny Boyは清濁を併せ呑む羽生の覚悟が感じられる作品の1つだ。

 

(文/大木雄貴)

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