「地位が人をつくる」とは、よく言ったものだ。クライマックスシリーズ出場を巡り、中日と熾烈な3位争いを演じる広島の4番・栗原健太の活躍を目にするたびに、つくづくそう思う。

 開幕からここまで全試合に4番として出場し、打率3割2分4厘、19本塁打、94打点の成績は立派の一語。169安打は現在、セ・リーグのトップ。もう少しホームランが多ければ……とも思うが、それは求めすぎか。

 江藤智(現埼玉西武)がFA権を行使してチームを去った後、4番の座を襲ったのが金本知憲だった。金本もまたFAでチームを去り、彼をアニキと慕う新井貴浩が後を継いだ。昨オフ、アニキの後を追うように新井もFAで阪神へ。空席となった4番に指名されたのが、コングという愛称(ホームラン王経験のある新井がキング)の栗原だった。

 このようにFAで相次いで主砲を引き抜かれながら、ほんの一時期を除き、カープは生え抜きの日本人が4番を占めている。ちなみにドラフトの順位は江藤が5位、金本が4位、新井が6位、栗原が3位。将来を嘱望された鳴り物入りのエリートではない。いわば叩き上げの“ノンキャリ組”だ。チャンスを与え、良き指導者がいれば人は育つのである。

 社会人野球のエース田澤純一(新日本石油ENEOS)のメジャーリーグ挑戦表明で、プロ野球空洞化の危機が叫ばれている。少子化に加え、他のスポーツとの競争が激化する今日、NPBが人的資源の確保に躍起になる気持ちはわからないでもない。

 しかし、その前に確保している人的資源を埋もれさせることなく有効に使っているか、育てているかということを省みる必要がある。高校時代に156キロをマークして騒がれ、巨人に入団した大型サウスポーは今、どうしているのか。横浜は毎年のように社会人や大学のエースクラスをドラフト上位で獲得しているが、契約金に見合った活躍をみせているケースは稀である。いったいどこに原因があるのか。

 人材は育てば「人財」となって球団を潤すが、育たなかったら「人債」となって球団に負担を強いる。勝率が4割を切っているような球団は厳しいようだがデフォルト状態と言わざるを得ない。

<この原稿は08年9月24日付『スポーツニッポン』に掲載されています>

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