プロ野球ペナントレース開幕前、野球雑誌の老舗「週刊ベースボール」(08年3月24日号)が開幕展望スペシャルと題して恒例の評論家による順位予想を行っていた。

 10人の中でパ・リーグの優勝を西武と予想した者は皆無。岩本勉氏の2位が評価としては最高で、大島康徳氏、池田親興氏の二人は最下位と予想していた。昨季、26年ぶりのBクラス(5位)に転落したことを考えれば、無理もない。

 就任1年目で名門を再建した渡辺久信監督の手腕は、どれだけ褒めても褒めたりない。「アグレッシブな気持ちを前面に出す個性的なチームをつくりたい」。キャンプ地の宮崎県南郷町でそう語っていた。「ウチはこれ以上、失うものがない。だから怖いものなしですよ」。スタンドの客はまばらだったが、雰囲気はどこの球団よりも明るかった。

 渡辺は現役引退後、コーチ修行のため台湾に渡った。ところが監督の要請で現役に復帰した。コーチ役も引き受け、伸び悩んでいるサイドスローの若手投手に対しては自らもそっくりのフォームに改め、マウンド上で手本を示したりした。帰国後は古巣で3年間、2軍監督を務めた。その意味では叩き上げの指揮官と言える。

 来年3月に行われるWBC監督の人選をめぐり、球界に隠然たる力を持つ巨人・渡辺恒雄球団会長が「星野君以上の采配をふるう人間がいるかね」と言ったことは記憶に新しい。時代は変わりつつある。実力のある若手指揮官を登用してもいいのではないか。もちろん渡辺も候補のひとりだ。

<この原稿は2008年10月5日付『産経新聞』に掲載されたものです>

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