これまで、プロ野球における右打者の最高打率は1999年、横浜のロバート・ローズが記録した3割6分9厘。それを超えての首位打者獲得がほぼ確実になった。
 横浜の内川聖一が打ちまくっている。10月8日現在、132試合に出場して打率3割7分8厘。打率に加え、安打数(185本)、得点圏打率(4割5分)もリーグ最高。打ち出の小槌を持っているようなものだ。

 さる10月5日の広島戦でも3安打を放ち、これで99年にローズがマークした22回の猛打賞球団記録に、あと1回と迫った。
 ちなみにシーズン最高打率は86年に阪神のランディ・バースがマークした3割8分9厘。残り試合数が少なくなるにつれ、どこまでその記録に迫れるかに注目が集まった。
 8年目の開眼だが、元々、バッティングには光るものがあった。プロ入り4年目の2004年には94試合の出場ながら17本塁打を放っている。
 高校生野手でドラフト1位の指名は珍しい。それだけ将来性が見込まれたということだろう。スカウトの目は正しかったのだ。

 打撃開眼の理由は何か。本人はこう語っている。
「昨年まではただガンガン打っていただけだった。それが今年から自らのポイントをしっかり押さえて練習に入るようにしたんです。
 具体的に言うと、右ヒジと右足の動きを一緒にした。こうすると右足が(内側に)入った時に右手の勢いが保てるんです。体の内側にエネルギーを貯めることでヘッドの走りがよくなった。しかも、ポイントを後ろに置き、ボールを見る時間も長くなったことでバットの芯に当たる確率が高くなった。
 今は引きつけて少々詰まっても、セカンドの後ろに落ちてくれればいいや、という気持ちでバットを振っています」

 ポイントを後ろに下げることで成功したバッターといえば、楽天の山崎武司のことが思い浮かぶ。
 山崎は楽天に入団するまでは典型的なプルヒッターだったが、前楽天監督・田尾安志のアドバイスを受けてポイントを後ろに下げ、昨季は38歳で11年ぶりのホームラン王に輝いた。
 山崎が21年かかってマスターした技術を、内川は8年で習得したのだから、覚えが早いといえるのかもしれない。まだ26歳。これから、さらに伸びる逸材である。

 内川が今、最も関心を示しているのが日本代表のユニホームである。
「高校時代も代表に入った経験はないんです。ですから日の丸を背負う重圧よりも憧れの方が強いですね。(来年3月に行われる)WBCもチャンスがあれば、ぜひ出てみたい。一度とは言わず、国を背負った立場で野球をやってみたい」
 その言や良し。日本の安打製造機は世界を驚かすことができるのだろうか。今年の成績をもってすれば、誰が監督になろうとWBC日本代表メンバーから漏れることは、まずありえまい。

<この原稿は2008年10月26日号『サンデー毎日』に掲載されたものです>

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