10月5日(日)、J2第39節となる愛媛FC対ザスパ草津の一戦が、ホーム(ニンジニアスタジアム)にて行われた。 
 四国ダービーを含め、リーグ戦終盤における大事な試合での大量失点による不甲斐ない敗戦。そして、シーズン後半戦以降の選手たちの気持ち(闘志)が見えてこない現状に対し、今節、サポーターたちは、敢えて抗議的な意味をも含む「無言」での応援を行う構えを見せている。
(写真:雨中の決戦、予測困難なボールの動き)
 いつものスタジアムを彩っている横断幕、個人選手応援幕、ビッグフラッグ等は一切掲出されず、緊急に作成された「ひたむきに、一生懸命頑張るオレ達の愛媛は、どこにいった?」という疑問を呈するメッセージが書かれた横断幕1枚のみが、ゴール裏に掲出されるなど、一種異様な雰囲気に包まれた今節のニンジニアスタジアム。

 果たして選手たちは、サポーターの意思を汲み、危機的状況を打破する「気持ちのこもった闘いぶり」を、見せつけることができるのだろうか。
 緊張の一戦が、午後2時、ザスパ草津のキックオフでスタートした。
 
 朝から大雨に見舞われている今日の愛媛県総合運動公園。ピッチ上には、大きな水溜りが点在し、コンディションは最悪。ボールは予測困難なイレギュラーな動きを繰り返し、選手たちも困惑している模様だ。

 立ち上がり、ファウル紛いの敵のタックルに苦しみ、なかなかボールをキープできない愛媛イレブン。自陣に押し込まれる時間が長く続く。
 それでも、試合開始15分を経過する頃には、カウンターによる素早い攻撃展開から、セットプレーなどの得点チャンスを掴み始める。
 
 前半22分、敵によるDFラインでのパス廻しをカットし、ボールを奪い取ったMF横谷繁選手が、敵陣内・右サイドをドリブル突破で駆け上がる。そのまま同サイド深い位置から、ゴール前に向けて絶妙のセンタリングを供給する横谷選手。

 ペナルティエリアに陣取るFW内村圭宏選手が、このボールを捉え、敵DFとの競り合いに勝ってジャンピング・ヘディングシュートを放った。ボールは敵GKが伸ばした手の先をすり抜け、ゴールに向かったが、クロスバーに弾かれ、惜しくもゴールならず。それでも愛媛の果敢な攻めに対して、観客からは拍手が送られた。
 
 一進一退の攻防が続く中、前半は0−0のスコアレスで終了。
 後半立ち上がり、敵陣内でボールをキープし、試合を優位に進める愛媛FC。

 後半0分、右サイド高い位置へ横谷選手がボールを持ち込むが、折り返せず、敵DFにクリアされる。このクリアボールを敵陣内・中央に陣取るMFキム・テヨン選手が拾って、ゴール前に向けて素早くアーリークロスを供給。ペナルティエリアに陣取るFW大木勉選手が、このボールを捉え、ヘッドで内村選手の足元に落とす。走り込んできた内村選手が、そのままシュートを放つが、敵DFに阻まれてしまう。
(写真:泥にまみれながら、気持ちのこもったプレーを展開)

 そこからこぼれたボールを、今度はゴール前に詰めていたMF赤井秀一選手が捉え、左足を鋭く振り抜き、シュートを放った。敵GKが横っ飛びでセーブに向かうが、ボールは、その横をすり抜け、ゴールへと向かった。「今度こそ、ゴール!」と思ったのだが、またしてもクロスバーに弾かれ、先制ゴールならず。本当に惜しいシュートだった。
 だが、「決定的な得点機を活かせず、ゴールを逃してしまう」という、いつもの悪いパターンが繰り返され、嫌なムードが漂い始めた。
 
 しかし、今節は違っていた。その雰囲気を、闘志あふれる愛媛のフォワードが払拭してくれたのだ。
 後半17分、敵陣内・右サイドで横谷選手がファウルを受け、フリーキックのチャンスを得た愛媛FC。MF青野大介選手が、ゴール前に向けてクロスボールを蹴り込むが、敵DFに大きく弾き返される。センターサークルまで弾き返されたクリアボールを、DF関根永悟選手が捉え、ダイレクト・ヘッドでペナルティアークへとロビングのボールで押し返した。

 そのボールは、敵DFを牽制しつつ、ライン裏へと抜け出す構えを見せていた内村選手の足元にピタリと納まった。そのままドリブル突破でペナルティエリアへとボールを持ち込んだ内村選手。敵DFに詰め寄られ、体勢を崩しながらも、右足を豪快に振り抜いた。気合のこもった弾丸シュートは、敵GKが伸ばした左手の上をすり抜け、見事、ゴールマウスに突き刺さったのだ。

「意地の先制ゴール!」
 チームメイトと抱き合って喜びを爆発させる内村選手。スタンドからは大歓声が湧き起こる。「無言」での応援を続けるサポーターたちからも拍手がこぼれていた。
 
 その後も雨中による悪コンディションの中、タフなゲームが続いたが、ついにタイムアップ。結局、最終スコア1−0で愛媛FCが勝利を収めた。
 
 この試合、気迫あふれるプレーでメンタル的にも相手を上回った(愛媛FCの)選手たちによる勝利と言えるだろう。
 試合後、サポーター席前へ挨拶に訪れた選手たちに対し、「無言」を貫いていたサポーターたちからは「エヒーメ! エフシー!!」と、今日始めての熱いコールが送られていた。
 
 サポーターからの信頼を取り戻すべく、泥にまみれ、体を張って攻めに守りに闘い続けた選手たち。これからも、その気持ちを大切にして欲しい。
 それこそが「STRONG WILL(揺るぎない意志)」だからだ。


松本 晋司(まつもと しんじ)プロフィール
1967年5月14日生まれ、愛媛県松山市出身。
愛媛FCサポーターズクラブ「Laranja Torcida(ラランジャ・トルシーダ)」代表。2000年2月6日発足の初代愛媛FCサポーター組織創設メンバーであり、愛媛FCサポーターズクラブ「ARANCINO(アランチーノ)」元代表。愛媛FC協賛スポンサー企業役員。南宇和高校サッカー部や愛媛FCユースチームの全国区での活躍から石橋智之総監督の志に共感し、愛媛FCが、四国リーグに参戦していた時期より応援・支援活動を始める。
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