10月12日(日)、第88回天皇杯(全日本サッカー選手権)3回戦となる愛媛FC(J2)対佐川印刷SC(京都府代表)の一戦が、愛媛FCのホーム(ニンジニアスタジアム)にて行われた。
 愛媛FCは、J2クラブ枠での出場ということで、この3回戦からの登場となった。「一発勝負」とも称されるトーナメント戦の初戦ということで、独特の緊張感もあり、闘い方の難しさがあるとは思うが、JFLを主戦場としている格下チーム相手だけに、実力差をみせつけ、是非とも勝利してほしいものである。
(写真:敵陣へ向け、ロングフィードで進攻)
 しかし、試合開始と共に、その期待は早々と裏切られる形になってしまった。前半立ち上がり、相手チームによる自陣への侵入を容易に許し、再三にわたりピンチを迎えるという嫌な展開。落ち着いたパス廻しで、攻撃を組み立てる愛媛イレブンではあったが、流れを引き寄せることが出来ない。

 リズムが掴めないまま、前半終盤に差し掛かり、迎えた前半37分、敵MFにゴール前でのルーズボールを押し込まれ、先制点を相手チームへと献上してしまったのだ。
「しっかりしろ!」
 思わぬ失点に、スタンドからは、叱咤の声が飛ぶ。

 先制を許したことで、やっと目が覚めたのか、ここから愛媛イレブンの反撃が始まった。
 前半41分、自陣からのクリアボールをセンターサークルに陣取るFW大木勉選手が、前線のスペースへ向け、ダイレクトにロビングのフィードボールを供給する。ボールへ追い着いたFW内村圭宏選手が、そのままドリブルでペナルティアーク手前まで持ち込み、右足を豪快に振り抜き、ミドルシュートを放った。

 低い弾道のボールは、勢いそのままに、敵ゴールを目指して突き進む。そして、敵GKの伸ばした手の先を擦り抜け、見事ゴール右隅に突き刺さったのだ。流れるようなカウンター攻撃での同点ゴールに、スタンドからは、どよめきにも似た歓声が湧き起こった。

 更に後半18分、敵陣深くボールを持ち込んだMF青野大介選手が、ペナルティアークに陣取るMF横谷繁選手へとパスを送る。ボールを受けた横谷選手が、右サイドスペース高い位置へ走り込む内村選手に向けてボールを通す。パスを受けた内村選手がトラップを挟み、ペナルティエリアに向けてセンタリングを供給。このボールを捉えたMF赤井秀一選手が、ヘディングでゴール前に陣取る大木選手へ向けてラストパスを送った。

 大木選手が後方からの、このロビングボールを捉え、半身の構えから体を回転させる。そして左足を振り抜き、巧みなボレーシュートを放った。慌てた敵GKが、ジャンプしてセーブに向かうが、ボールはその頭上を擦り抜け、見事ゴール右隅に突き刺さったのだ。大木選手によるアクロバティックな逆転ゴールにスタジアムが、大歓声に包まれる。

 だが、逆転したとは言え、点差は僅かに1点。残り時間も充分にあることから、相手チームも諦めず、必死に喰らいついてくる。カウンター攻撃などで、愛媛陣内へと果敢に攻め込んでくる佐川印刷SC。それでも、GK川北裕介選手を中心に鉄壁の守りで、ゴールを死守する愛媛DF陣。
(写真:中盤、激しくボールを奪い合う両チーム)

 後半ロスタイム、自陣中央から、やや右サイド寄りの場所で、ファウルを取られ、敵にフリーキックを与えてしまった。試合終了間際、ピンチを迎えた愛媛FC。自陣ゴールまで、約30メートルの距離からのリスタート。守備につく愛媛イレブンに緊張が走る。

 各々、敵選手のマークにつく中、敵のキッカーが助走をとり、右足を鋭く振り抜いた。放たれたボールは、クロスボールではなく、直接ゴールを狙った弾丸シュート。ボールはゴールマウス左上隅を目がけて襲い掛かる。次の瞬間、川北選手が、素早い反応を示し、大きくジャンプ。腕をめいっぱい伸ばし、左手一本で、このボールをパンチング。闘志溢れるファインセーブで、愛媛ゴールを見事に守って見せた。

 そして時間は過ぎ去り、ついにはタイムアップ。
 結局、大木選手のゴールが決勝点となり、最終スコア2−1で愛媛FCが、辛くも逆転で勝利を収めた。 

 格下チーム相手に苦戦してしまった3回戦だったが、トーナメント戦の難しさを改めて経験し、勉強できたことは、収穫であったと言えるのかもしれない。
 また、この試合、愛媛のFW2トップにゴールが生まれた。それぞれの得点シーンにおいて、もう片方のFWが得点のお膳立てをするなど、ポジション的な機能が働いている。これは戦術上においてもチーム全体の自信へ繋がるものではないだろうか。

 今年の締めくくりに向け、チームとして更なる進化を果たした、「愛媛サッカー」を是非とも見せてほしい。


松本 晋司(まつもと しんじ)プロフィール
1967年5月14日生まれ、愛媛県松山市出身。
愛媛FCサポーターズクラブ「Laranja Torcida(ラランジャ・トルシーダ)」代表。2000年2月6日発足の初代愛媛FCサポーター組織創設メンバーであり、愛媛FCサポーターズクラブ「ARANCINO(アランチーノ)」元代表。愛媛FC協賛スポンサー企業役員。南宇和高校サッカー部や愛媛FCユースチームの全国区での活躍から石橋智之総監督の志に共感し、愛媛FCが、四国リーグに参戦していた時期より応援・支援活動を始める。
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