福井ミラクルエレファンツの1年目が終わりました。今シーズンを振り返ってみて、まずはとにかく無事に終えてほっとしているというのが正直なところです。球団は設立1年目でしたから、何もかもがゼロからのスタートで、全てを自分たちでつくり上げていかなければなりませんでした。そんな中、成績は残念な結果に終わりましたが、チームとしてシーズンを戦い抜くことができたことに安堵感を覚えています。
 さて、今シーズンの福井は開幕当初は戦力的にも技術的にも他球団を下回っていました。開幕4連敗から始まった前期はなかなか勝ち星を伸ばすことができず、首位・富山サンダーバーズと8.5ゲーム差をつけられ、9勝22敗5分、勝率.290の北陸地区最下位に終わりました。上信越地区の最下位だった信濃グランセローズの勝率が.469ですから、他球団との差は歴然としていたことがわかります。

 しかし、後期は一転、スタートから2連勝を飾ると、その後も他球団と互角の戦いを繰り広げました。9月初旬まではリーグ内でも強豪の富山サンダーバーズや石川ミリオンスターズとの激しい優勝争いに加わり、一時は単独首位に浮上したこともありました。それは惨敗に終わった前期を踏まえて、選手一人ひとりが勝つために自分たちは何をやるべきかということを学んだからではなかったかと思います。

 では、やるべきこととは何だったなのか。それは単純なミスをしないということです。守備でのエラーはもちろん、無駄な四球、つまらない三振もそうです。後期はこれらが前期に比べるとグンと減りました。また、打線もここ一本という時にタイムリーが出るようになったことも大きかった。一番苦しい夏の時期に踏ん張ることができた点は評価したいですね。

 とはいえ、終盤は体力がもたず、9月12日の石川戦から4連敗を喫し、首位の座から一転、最下位に陥ってしまいました。結局終わってみれば首位富山と4.5ゲーム差の最下位でした。やはり1年間を通して戦えるだけの体力が不可欠だなということを痛感させられました。

 今シーズンは僕にとっても大きな節目の年となりました。プレーイングコーチとなり、指導者としての第一歩を踏み出したわけですが、現役と並行して指導するというのは想像以上に大変でした。それでも昨年1年間、四国アイランドリーグ(現四国・九州アイランドリーグ)でプレーしていましたので、現役への気持ちはある程度、整理することができていました。そのため、気持ち的には指導者としての割り合いが大きく、今シーズンは“(プレーを)見せて教える”ということに重点を置いてやってきました。その点では、それなりに達成できたかなと感じています。

 そして来季藤田平前監督の後を引き継ぎ、指揮官としてチームを引っ張っていくことになりました。他球団は選手としても指導者としても、立派な実績をもっていらっしゃる方が監督に就任されています。僕はまだ29歳と若く、指導者としてもばだまだ半人前です。様々な方のアドバイスを受けながら、選手と一緒に、彼らにとってプラスとなれるような監督になりたいと思っています。

 そのためにも型にはまらない、選手の個性を重視した指導を行なっていきたいと考えています。というのも、BCリーグは選手にとって一区切りつける場でもあると思っているからです。BCリーグに入団してくる選手は誰もが皆、次のステップ、つまりNPBへの昇格を目指しています。そのためにはそれこそ死に物狂いでやらなければなりません。「来年もう一度やれと言われても、もう無理」と思えるくらいの努力をしなければ、その目標を達成することはできないのです。ですからBCリーグでは選手は皆、1年1年が勝負。NPBのように数年かけてゆっくりと指導するということは不可能です。短期間でやれることは限りがあります。だったら僕は欠点を修正するのではなく、個々のいい部分を伸ばすことに時間を割きたいと思っているのです。 

 チームは今月からオフ期間に入りました。2月までは基本的に自主トレーニングにあてています。もちろん、選手から依頼があれば、指導することは惜しみませんが、自主性に任せてみようと考えています。今季、課題として浮き彫りとなった1年間フル稼働できる体力づくりも、このオフの期間にどれだけやってきたかで決まります。春のキャンプの時、やってきた選手とやってこなかった選手とでは大きな差がついていることでしょう。
 僕は監督就任の際、ファンの前で「オフの期間に十分にトレーニングを積んでこなかった選手は切る」と宣言しました。そんな選手が一人も出ないことを願いたいと思います。


天野浩一(あまの・こういち)プロフィール>:福井ミラクルエレファンツ新監督
1979年4月12日、香川県出身。高松東高、四国学院大を経て2002年、ドラフト10巡目で広島に入団。2年目には貴重な中継ぎとして49試合に登板した。06年オフに自由契約となり、翌年に四国アイランドリーグの香川オリーブガイナーズに入団。前期は先発、後期はリリーバーとして41試合に登板し、7勝6敗13セーブの好成績で最多セーブを獲得。リーグ優勝および石川とのチャンピオンシップでの優勝に大きく貢献した。08年はプレーイングコーチとして福井に入団。23試合に登板し、0勝2敗8セーブと主に抑えとして活躍した。10月に藤田平前監督の後任として新監督に就任した。

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