「いくらチャンピオンズリーグとはいえ3階席で37ポンドだよ。日本円で約6000円(当時)。これじゃフットボールは“庶民のスポーツ”とは言えないな」。過日、川淵三郎氏と会食する機会があった。この10月、オールド・トラフォードでマンチェスター・ユナイテッド対セルティック戦を観戦した時の話。日本人観光客にチケットの値段を聞いたところ、先の答えが返ってきたという。プレミアリーグの入場料は平均8000円。高騰する年俸が入場料にはね返る。

 明けない夜がないように、止まない雨がないように、はじけないバブルはありえない。フットボールの世界においてバブル景気を謳歌していたのがイングランド「プレミアリーグ」だ。06−07年、07−08年の欧州チャンピオンズリーグではベスト4のシートのうち3つまでをプレミアのクラブ(マンチェスター・ユナイテッド、リバプール、チェルシー)が占めた。

 3クラブのオーナーはいずれも外国人である。ユナイテッドはNFLタンパベイ・バッカニアーズのオーナーで実業家のマルコム・グレイザー氏。クラブが買収された際、サポーターは「オールド・トラフォード」をもじって「ソールド・トラフォード」と呼んだ。リバプールはこれまた米国人のジョージ・ジレット氏とトム・ヒックス氏。ヒックス氏はMLBテキサスレンジャーズのオーナーだ。そしてチェルシーのオーナーは言わずと知れたロシアの石油王ロマン・アブラモビッチ氏。彼は世界同時株安の影響を受け約2兆円の評価損を被ったと見られている。リーグ全体での負債は約5700億円にのぼる。

 プレミアとは規模も中身も違うが、Jリーグもバブル崩壊の経験を持つ。マリノスとフリューゲルスの合併は社会問題にまで発展した。その時の反省をもとにJリーグは「身の丈に合った経営」を目指し始めた。ひとつ間違うと緊縮財政の正当化に利用されかねない言葉だが、それでも放漫経営よりはマシだ。後発国だからと言って遠慮する必要はない。誰か日本の経験を伝えてやればいい。この際、円高ユーロ安を利用してプレミアリーグを始めとする欧州主要リーグから大物を獲得するという手もある。スターを買い支えることも「国際協調」のひとつだ。Jリーグが欧州に存在感を示す好機かもしれない。

<この原稿は08年11月19日付『スポーツニッポン』に掲載されています>

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