少々、意地悪な物の見方をしてみる。仮にWBC東京ラウンドの主催者が読売新聞社ではなく中日新聞社だったとする。果たして中日の候補選手5人全員が代表入りを辞退するなんてことがありえただろうか。今回の中日の“集団ボイコット”に球団エゴの匂いが消えないのは、そんな背景が見え隠れするからだ。

 だからと言ってボイコットの“元凶”とされる中日・落合博満監督を一方的に断罪するのもフェアではない。落合監督が言うように、「選手は一個人事業主」であり、雇用契約は球団との間で結ばれている。代表入りする、しないはあくまでも選手の自由であり、所属球団の監督はもとより、WBC日本代表監督やコミッショナーにも代表入りを強制する権限はない。

 そもそもプロ野球選手の代表チーム参加、そして代表チーム結成に一番反対したのは現巨人球団会長の渡邉恒雄氏である。あれはシドニー五輪前のことだ。「五輪に協力したいところはすればいい。プロはプロで、残ったところでひとつになってやればいいんだから」と新リーグ結成をちらつかせ、五輪に協力的な姿勢を示す西武をはじめとするいくつかの球団を牽制した。結局、巨人はひとりの選手もシドニーには派遣しなかった。足並みの乱れた日本代表は野球が五輪の正式競技になって以降、初めてメダルを逃した。

 オールプロでの日本代表を結成して日の浅いNPBがすぐにやるべきことは代表入りに関するルール整備だ。混乱を避けるためにもガイドラインくらいは作っておくべきだ。第一に候補選手に対しては、代表入りする意思があるか否かを確認する必要がある。第二に代表入りの意思があるにも関わらず辞退する場合は医師の診断書の提出を義務付ける。ちなみにメジャーリーグでは一定期間DL(故障者リスト)入りした選手や今オフ手術を受けた選手を球団の了承なしに代表に呼ぶことはできない。第三に代表戦で故障した場合の補償制度の設計と実施。

 WBCは成長が見込める貴重な球界の優良ソフトである。ただ闇雲に一枚岩になるより、問題をひとつひとつ丁寧に解決していく姿勢が望ましい。それにより「小異を捨てて大同につく」という方向性が見えてくれば、今回の騒動は決してマイナスではない。「雨降って地固まる」となればいいが…。

<この原稿は08年11月26日付『スポーツニッポン』に掲載されています>

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