第269回「学校プールはどこに行く!?」

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「子どもたちにリアルな体験をさせて欲しい」とある小学校のPTAからトライアスロン教室の依頼があり、数年前から開催しているが、昨年は暑過ぎるということで実技は中止になった。プールでのスイムとグラウンドのランを開催する予定だったのだが、「暑いならプールだけでも」と提案すると、プールも暑さのリスクがあるからNGだという。確かに暑いプールサイドに立っているのも危険で、プールサイドも裸足で歩けない状況だった。

 

(写真:野外プールで指導中、こんな景色はなくなっていく!?)

 聞くと近年7、8月はプールが使えないことが多いという。その時期こそプールが魅力的なのだが、暑過ぎて使えないとはなかなか難しい時代になったものだ。

 
 また、最近は水泳の指導を先生ができないというケースも多く、指導者不足が顕在化している。より専門性が高く、安全管理なども大変なので、教員の負担も小さくない。さらに施設の管理維持にも人手が必要で、ただでさえ教員の負担軽減が叫ばれる中、難しいところだ。

 

 数年前には教職員の過失による、水の止め忘れや操作ミスで漏水し、自費で賠償となったケースもあった。また維持管理にかかる費用も馬鹿にならず、水の入れ替えには25mプールで、約20万円程度が必要だという。またシーズン中は水質を一定水準まで維持することが必要なので、フルタイムで濾過機を稼働させ管理している。そのため、シーズンごとに維持費数十万円、塩素等の薬品で十数万円かかってくる。

 

 さらに、最近では建設から40~50年が経過し老朽化した施設が多い。つまり大規模修繕や建て替えの時期だが、大規模修繕でも数億円はかかる。さらに使う頻度の減少、また上記の理由などにより、改修を見送るケースが増えている。

 

 スポーツ庁のデータによると、2018年の屋外プール設置率は小学校94%、中学校73%。3年後の2021年には、小学校87%、中学校65%と短い期間に急減しているのが分かる。

 

必要だけど維持できない

 ではそもそも、なんのために学校で水泳をやるのか。
 
 一つはスポーツとして。子どもたちの発育発達のためという目的で1968年から学習指導要領に入り、70年代に広がった。僕も70年代に小学生時代を過ごしたが、晴れた日のプール授業が楽しみだったのを覚えている。もう一つは安全教育。池や川、海に入った時の正しい対処法を身につけさせようというものだ。水が嫌いな子どもでも、水中に落ちたりするケースはあるわけで、基本的な水の特性を知り、対処を体得することは必要だろう。

 

 必要だけど、プールは維持できない。
 この事態に対処すべく、全国的に始まっているのが近隣の民間施設利用だ。民間の室内プールを使えば天候にも左右されず、普段の施設管理も必要ない。さらに、指導を民間に委託するケースも増えており、そうすると教員の負担は限りなく小さくなる。おそらく、今後の少子化や、自治体の財政難などを考慮すると、この方向性はさらに加速していくだろう。まぁ子どもからしても、いい環境で、指導に長けた指導者から教わるほうがいいわけで、当然の流れなのかもしれない。

 

 ただ、ここでの問題は、民間施設はあくまでも営業ベースで運用されていることである。いつでも使えるというわけでも、学校の都合をいつも聞いてくれるわけでもない。ましてや周辺の学校が皆使いたいとなってくると、使える頻度にはかなり制限されてくるのは当然だ。すると水泳の授業数は減らさざるを得ないということになる。


 また、民間のプールとて維持は容易でない。そもそも使えるプール自体が減っていくと、この問題はさらに深刻化するだろう。

 

 一つの解決法として、学校ごとではなく、地域ごとにプールを設置するというもの。地域で一つの学校のみに室内プールをつくり、周辺の数校で共同利用するのだ。さらに学校がプールを使わない時間帯を地域に開放するという方式。これならば、民間の事情に左右されず学校が中心で運用することができる。行政としても維持コストを下げられ、地域施設としても使えるので多くの人がメリットを享受できる。運用など工夫はまだ必要だが、今後の方向として一つの指標となるのではないか。

 
 世界に誇った日本の水泳授業は大きな変化期を迎えている。
 持続可能で、子どもたちの健康と安全に寄与できるプール施設はどうあるべきか。
 まだまだ議論していくべきだろう。

 

白戸太朗(しらと・たろう)プロフィール>

 スポーツナビゲーター&プロトライアスリート。日本人として最初にトライアスロンワールドカップを転戦し、その後はアイアンマン(ロングディスタンス)へ転向、息の長い活動を続ける。近年はアドベンチャーレースへも積極的に参加、世界中を転戦していた。スカイパーフェクTV(J Sports)のレギュラーキャスターをつとめるなど、スポーツを多角的に説くナビゲータとして活躍中。08年11月、トライアスロンを国内に普及、発展させていくための会社「株式会社アスロニア」を設立、代表取締役を務める。17年7月より東京都議会議員。著書に『仕事ができる人はなぜトライアスロンに挑むのか!?』(マガジンハウス)、石田淳氏との共著『挫けない力 逆境に負けないセルフマネジメント術』(清流出版)。最新刊は『大切なのは「動く勇気」 トライアスロンから学ぶ快適人生術』 (TWJ books)

>>白戸太朗オフィシャルサイト
>>株式会社アスロニア ホームページ

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