第268回「中学生に全国大会は必要?」

facebook icon twitter icon

 6月8日、中学校スポーツ関係者に衝撃が走った。

 日本中学校体育連盟が、一部を除き2027年から9競技の全国大会を廃止すると発表したからである。関係者には困惑と混乱が広がった。ただ、全国大会の是非に関しては、これまでも議論されてきており、中体連も様々な競技と情報収集などを行っていた。それでも、この決定は少々突然の感もあり、しばらくは混乱が続きそうだ。

 

 今回、全中廃止対象と発表されたのは水泳、ハンドボール、体操、新体操、ソフトボール男子、相撲、スキー、スケート、アイスホッケー。開催地との契約あるスキー(2029年度まで)を除き、8競技は2027年度から実施されなくなるというもの。全20競技のうち「2022年度に部活動の設置率が20%未満だった競技」が対象となったそうだ。

 

 学校生活の中で、全中を最重要な目標として頑張っていた部活の子どもたちの衝撃は大きく、不満や悲しみの声が聞こえてくる。僕もそんな中学生の一人だったので、もし当事者だったならば大きなショックを受けただろう。

 選択基準や廃止になった競技を見ると、マイナー競技が切り捨てられている感も強く、マジョリティだけを優先させる方向性には疑問を感じずにはいられない。

 

 ただ、スポーツの世界では、全国大会における開催地の費用負担や人的負担の大きさが問題となっており、国民体育大会の存続さえも議論されている。全中の場合はさらに、教員の負担が増え、少子化などの社会課題もある。全中は競技団体が中心とはいえ、それを支えているのは、競技に関わっている教員である。ほぼボランティアのような扱いで引率や競技役員を務めている。

 

 もちろん、部活動指導が好きで生きがいにしている先生もいる。僕もそんな先生に育てていただいたが、そう考える先生ばかりではなくなっているのが現状。また少子化で学校の部活として人数が揃わないことも。さらに最近はハードな部活には子どもが集まりにくいという傾向があり、少子化と相まっていわゆるガチな部活の部員が減っている。チームスポーツなどでは、部として成立せずに廃部になったり、統合チームで大会に出場するケースも増えているようだ。

 

未来への議論が必要

 さらに中学生年代が全国大会を目指すべきなのかという議論も起きている。

 世界的に見ても、10代前半で全国大会を開くケースはそれほど多いわけではないし、この世代に結果を求めるというのも日本独特の風土かもしれない。例えばノルウェーでは12歳以下の全国大会開催を禁止し、小学生年代のスポーツ成績をWebに掲載することすら禁じている。子どものスポーツにおいては勝利至上主義を極力排し、スポーツを楽しむことが徹底されているという。

 

 先日、私が主催するハワイのキッズトライアスロンイベント。参加した地元の子どもたちは、普段から様々なスポーツをやっているので、いろいろなユニフォームやTシャツを着ていた。そして自転車も普段使っているものばかり。そう、トライアスロン大会は日常スポーツの延長なのだ。その集団から日本人の子どもが、ロードレーサーで、ユニフォームまで大人顔負けにばっちり決めて走り去っていった。地元の父兄たちは「凄いね~、子どもなのに本格的だ」と驚いていた。

 

 もちろん一生懸命にやることを否定しているのではない。でも、この世代で、勝負にこだわり過ぎるのはいかがなものか……。

「子どもは上手くできれば楽しいと思うから、そんな経験を様々なスポーツでさせてあげて、その中で一番好きなものをチョイスすれば楽しく継続できる。楽しく続けられるからレベルが上がるんだよね」という友人のコーチの一言は、なかなか耳が痛い。

 

 一方、日本では中学校の競技成績で進学が決まることも少なくなく、その指針がなくなることに抵抗もある。進学先が、その後の環境の差ともなりうることを思うと、中学校で成績を出すことに力を注ぐのもわかる。

 

 日本ででき上がっている、この社会システムを壊すのは、いや変更するのは簡単ではない。

 しかし大会運営上も、子どもへの教育上もそろそろ変更していかなければならないことに気が付いている関係者は多い。それでも既存システムを変えていくエネルギーと労力は想像を絶するだろう。その貴重な第一歩を踏み出した中体連に、まずは敬意を表したい。

 

 その上で、なぜメジャースポーツだけ全中に残すのか。ジュニアオリンピックなどの代替競技会が数多くある中での役割分担、そしてなにより中学生期におけるスポーツの在り方までしっかり議論する必要があるのではないか。

 そこまで踏み込んでいかなければ、いま泣いている子どもたちに示しがつかない。

 

白戸太朗(しらと・たろう)プロフィール>

 スポーツナビゲーター&プロトライアスリート。日本人として最初にトライアスロンワールドカップを転戦し、その後はアイアンマン(ロングディスタンス)へ転向、息の長い活動を続ける。近年はアドベンチャーレースへも積極的に参加、世界中を転戦していた。スカイパーフェクTV(J Sports)のレギュラーキャスターをつとめるなど、スポーツを多角的に説くナビゲータとして活躍中。08年11月、トライアスロンを国内に普及、発展させていくための会社「株式会社アスロニア」を設立、代表取締役を務める。17年7月より東京都議会議員。著書に『仕事ができる人はなぜトライアスロンに挑むのか!?』(マガジンハウス)、石田淳氏との共著『挫けない力 逆境に負けないセルフマネジメント術』(清流出版)。最新刊は『大切なのは「動く勇気」 トライアスロンから学ぶ快適人生術』 (TWJ books)

>>白戸太朗オフィシャルサイト
>>株式会社アスロニア ホームページ

facebook icon twitter icon
Back to TOP TOP