先日、東京ヤクルトから育成指名を受けた塚本浩二の入団発表に参加しました。ステージにあがった塚本のユニホーム姿は予想以上に立派でしたね。プロ野球選手にとってユニホームが似合うことは活躍の第一条件。あとは結果を出して、ますますスワローズのユニホームが様になるように頑張ってもらいたいものです。

 これまで深沢和帆、伊藤秀範と2人のNPB選手を送り出してきましたが、塚本には「よく成長したな」との思いを強くしています。入団当初、彼の遠投能力は50メートル程度。これはプロを目指す野球選手としては低い数字です。社会人時代に転向したアンダースローもまだまだ完成には程遠い姿でした。

 まず彼に伝えたのは「体全体を使って大きく投げること」。体力強化と並行して、全身の力をムダなくボールに伝える投げ方を徹底しました。結果、遠投の距離はみるみる伸び、一般的な選手と変わらないところまで投げられるようになりました。

 基礎ができれば、次はマウンドで生かせる投球術を身につけることです。彼には剛速球があるわけでありませんから、何より大切なのは緩急。いかに打者のタイミングを外すかを2人で追求しました。

 その際に重要なのは、ストレートも抜いたボールも同じ腕の振りで投げることです。球種によって腕の振りがバラバラだと、打者の見極めは簡単になってしまいます。ストレートは自然に腕が振れますが、難しいのは腕を振って遅いボールを投げること。自分の持ち球だったカーブはもちろん、ヤクルト時代のチームメイトだった高津臣吾さんのシンカーの投げ方をマネしてみたり、試行錯誤を繰り返しました。

 投げる体力、そして力を発揮できる正しいフォーム、さらに打者を打ち取るための球種と技術――四国でひとつひとつ課題をクリアして塚本はNPBプレーヤーになりました。26歳と遅咲きではありますが、諦めずに地道に努力を重ねれば夢は叶う。このことを彼は証明しました。何年もアイランドリーグでチャレンジを続ける選手たちにとって、勇気を与える指名だったのではないでしょうか。

 さて、僕は今季限りで香川を退団し、来季から徳島のコーチに就任することになりました。4年前、香川にやってきたときはすべてが手探り状態。コーチ経験もない自分がここまでやってこれたのは、選手、監督、コーチがさまざまなことを教えてくれたからに他なりません。

 指導者としてまず大変だったのは、現役時代の自分の感覚だけでは教えられないということです。選手の特徴や性格に合わせて、アドバイスする内容、タイミングはそれぞれ違います。自分の持っていない引き出しを増やすため、この3年は本当に勉強の日々でした。そして、これからも勉強は続くでしょう。

 現役でない自分は選手たちにマウンドで手本をみせることができません。いかに教えたいことを伝えるか。それにはコミュニケーション能力を磨くしかありません。かける言葉ひとつで選手は劇的に変わることもあれば、その逆もある。僕は教える者にとって、言葉は魔法だと考えています。それだけに、やればやるほどコーチの発言に重みと責任があることを感じるようになりました。

 これらの経験を生かし、自分のコーチとしての能力をさらに磨きたい。それが移籍の理由です。徳島は香川と違い、結果が出ていないチームです。いかに自分がチームのために、選手の力を伸ばすために貢献できるか。これまで以上に勝負の土地になると感じています。

 相手ベンチから見ていて、徳島の投手は決して力がないようには思いません。しかし、結果が出ないのは1球、1点に対する意識が足りないから。2ストライクまで追い込んでも打たれたり、終盤まで接戦に持ち込んでも負けてしまうのは結局、詰めが甘いのです。

 とはいえ、「アウトローを意識してピンポイントで投げろ!」と言っても、すぐに実行することは不可能でしょう。むしろ、選手が萎縮して余計にコントロールが乱れるのは目に見えています。ならば逆の発想で、まずは絶対に投げてはいけないコースに投げないことを徹底します。その第一ステージをクリアすれば、インコースとアウトコース、高低のおおまかなコースを狙って投げられればいい。選手のレベルに応じ、段階を決めて指導したいと考えています。

 もうひとつ、各投手には勝負球を徹底的に磨いてほしいものです。いくら2ストライクまで追い込んでも、ウイニングショットがなければ、なかなかバッターは仕留められません。自信を持って投げられる球が1つあれば、配球は組み立てやすくなりますし、マウンド上での余裕も生まれます。徳島の各投手とはキャンプでしっかり話をして、何を武器にできるのか、しっかり探っていきたいと思っています。

 最後になりましたが香川のみなさん、これまで本当にありがとうございました。そして、徳島のみなさん、これからよろしくお願いします。


加藤博人(かとう・ひろと)プロフィール>:香川オリーブガイナーズコーチ
 1969年4月29日、千葉県出身。87年ドラフト外で八千代松陰高からヤクルトに入団。2年目の89年に6勝9敗、防御率2.83(リーグ8位)の成績を挙げて一軍に定着。故障で戦列を離れた年もあったが、貴重な中継ぎサウスポーとして95年、97年のチームの日本一に貢献した。分かっていても打てないと評された大きく曲がり落ちるカーブが武器。01年に近鉄に移籍後、02年には台湾でもプレーした。日本球界での通算成績は27勝38敗、防御率3.85。05年にスタートした四国アイランドリーグで香川のコーチに就任。深沢和帆(元巨人)、伊藤秀範(元東京ヤクルト)、塚本浩二(東京ヤクルト)と3人のNPB投手を育てた。来季からは徳島のコーチに就任。

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