第1161回 第3の道“五輪のスケボー化”狙って
夏季五輪における日本人のメダル第1号は、1920年アントワープ大会のテニス男子シングルスで銀メダルを胸に飾った熊谷一弥。それから104年かけて、今夏のパリ大会でメダル総数は500の大台に乗り、7月29日(現地時間)現在、511個。あと30個は追加されそうだ。
ソウル五輪競泳男子100メートル背泳ぎの金メダリストで、初代スポーツ庁長官の鈴木大地は、強化に話が及ぶと、しばしば「御四家」という言葉を口にした。柔道、体操、レスリング、水泳(主に競泳)。この4競技こそが日本のお家芸であると同時にレゾンデートルでもあるというわけだ。
実際、この4競技は、日本五輪史の中でも、ひときわまぶしい輝きを放っている。競技別で見ると、最も多くのメダルを獲得しているのが体操で104個(金34、銀34、銅36)、続いて柔道の101個(金50、銀21、銅30)、3番目が水泳の98個(金24、銀32、銅42)、そして4番目がレスリングの76個(金37、銀22、銅17)だ。この「御四家」が獲得した379個のメダルは、全体の74.2%に及ぶ。
そんな中、“御五家”に名乗りを上げようとしているのが、前回の東京大会から正式競技となった新参者のスケートボードだ。東京大会では男女合わせて5個のメダル(金3、銀1、銅1)を獲得した。パリ大会でも堀米雄斗(男子ストリート)、吉沢恋(女子ストリート)が金、赤間凜音(同)が銀を手にしている。
周知のように元来、ストリートカルチャーであるスケボーをIOCが正式競技として採用した背景には、若年層の五輪離れがあった。組織の存続、発展のためなら非伝統的な競技をもしたたかに取り込むIOCの融通無碍には、皮肉ではなく感心する。いずれeスポーツも組み入れるのだろう。
東京からパリへ。勝者敗者の隔てなく、誰かれなしに健闘を称え合い、技を認め合うスケボー界隈のフラットな人間関係、フランクな人間模様は、パリ大会のスローガンである「Games Wide Open」を最も反映しているように感じられる。「心が開かれている」という意味において。逆説的に言えば、それこそが五輪本来の姿なのだろう。
だが、ここにきて生粋のスケートボーダーからは“五輪どっぷり”の姿勢に疑問を呈する声が上がっている。競技化が進めば進むほど反権威主義、非体育会系の色が薄れ、ステイタスと引き換えに大事なものを失ってしまうのではないか。そんな懸念もある。
親五輪か反五輪か。二元論のどちらかに与するのも結構だが、第三の道もあるのではないか。奪五輪、すなわち五輪のスケボー化である。借りた庇で母屋を乗っ取るぐらいの野心があってもいい。年齢、性別、人種、民族、宗教、国境……。スケボーにはあらゆるボーダーを超えていくだけの競技的魅力がある。斬新な政治的トリックで五輪の上座を狙ってもらいたい。
<この原稿は24年7月31日付『スポーツニッポン』に掲載されたものです>