時ならぬ朝青龍人気に沸く大相撲初場所。ご同慶の至りと言いたいところだが、この人気、いつまで続くかわからない。むしろ相撲界にとっては、こちらのほうが朗報だろう。

 周知のように来年度(今年4月)から中学校の学習指導要領が改訂され、3年間の移行期間を経て、中1と中2では武道とダンスが必修となる。武道は原則として柔道、剣道、相撲の中からひとつを選択する仕組み。柔道、剣道に比べると指導者不足の相撲は「履修者が少ないのではないか」(文科省関係者)と心配されているが、それでも3つの中のひとつに入ったのは大きい。相撲の底辺拡大に一役買うのではないか。

 というのも近年、境内の土俵や、小中学校の砂場で相撲をとっている少年の姿をほとんど見かけなくなったからだ。それどころか土俵や砂場自体が少なくなっている。これはある高校の相撲部の監督から聞いた話だが、相撲経験のない新入部員にまわしを付けさせようとしたら、「恥ずかしいのでパンツの上に付けさせてください」と懇願したという。「お尻を出すのが恥ずかしいというんだから、もう相撲どころではありませんよ」と、その監督は苦笑いを浮かべていた。
 私にも似たような経験がある。朝青龍騒動の際、コメンテーターとして、ある民放局に呼ばれた時の話。25、6歳の担当ディレクターが真顔で「あのォ、右四つとか左四つって何のことを言うんですか?」と聞いてきたのだ。「キミ、相撲とったことないの?」と聞き返すと、「近所に相撲スクールとかなかったんで……」。その答えを聞いて、もっとビックリした。

 今の若い世代は、それこそ学校の砂場や空き地で草相撲など経験していないのだ。きっと草野球もやったことがないに違いない。今じゃスポーツは野球にしろ、サッカーにしろ、最初から「チーム」や「スクール」に入って習うものなのだ。かつてのように遊びの延長線上にはないのである。これでは底辺は枯れる一方だ。
 そんな時勢だからこそ授業の一環とはいえ、中学生が相撲に親しむのは喜ばしいことだ。と同時に力士はビギナーの良き手本にならなくてはいけない。そのためにも新学習指導要領に記された内容を力士たちはあらかじめ知っておく必要がある。

<この原稿は09年1月21日付『スポーツニッポン』に掲載されています>

◎バックナンバーはこちらから