スマートパワー――。バラク・オバマ米国新大統領が好んで使う言葉だ。もともとはオバマ政権下で駐日大使に就任見通しのハーバード大ジョセフ・ナイ教授、リチャード・アーミテージ元国務副長官らが提言した概念で外交や情報活動など軍事力(ハードパワー)に頼らない力を指すものだという。

 確かにイラクもアフガンも軍事力だけでは解決しなかった。いや、むしろ混迷の度合いを深めている。テロの恐怖を取り除き、米国が世界からの信頼を取り戻すには何が必要か。それがスマートパワーだとオバマ大統領は力説する。

 これはWBCで連覇を目指す侍ジャパンにも必要なコンセプトではないか。
 周知のようにWBCはわずか3週間弱で予選から決勝までが行なわれる。サッカーのW杯のように予選から決勝まで4年を費やすような大がかりな大会ではない。途中で監督を交代させたり、選手を入れ替えたりするのは現実的に不可能だ。そうであれば監督と選手の絆やチームの一体感が通常のチャンピオンシップ以上に重要な要素となる。

 継投も大きなカギを握る。というのもWBCには投手の球数制限がある。おかしなルールと言えば、おかしなルールだが、今になってそれを言っても仕方がない。条件はどこも一緒。ならばこのルールを采配にうまくいかすことのできたチームが有利となる。他のコーチ以上に投手コーチの責任が重いのは言うまでもない。

 春先での大会だということも忘れてはならない。予想される先発メンバーだけを見れば日本は米国やドミニカ共和国に比べて見劣りする。本紙が予想する(1月21日付)米国代表スタメンの年俸総額は約64億5000万円(08年シーズン)、ドミニカ共和国代表のそれは約96億2000万円(同)。翻って日本は松坂大輔が先発したとしても50億円程度(同)だ

 それでも日本が不利とは限らないのは春先、打者のスイングは一様に鈍い点が挙げられる。強力打線が年俸通りの働きをする保証はない。むしろその逆になるケースの方が多い。ここにスモールベースボールを得意とする日本が付け入る余地がある。

 戦力をカバーして余りある戦略と戦術。オバマ政権のお株を奪うスマートパワーを世界中に知らしめたい。それが第2回大会での日本代表のミッションだ。

<この原稿は09年1月28日付『スポーツニッポン』に掲載されています>

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