大宮が示すJの新たなモデルケース

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 SVアウストリア・ザルツブルクというチームがある。オーストリア3部に所属するチームで、設立は2005年。チームが世界的大資本に買収された際、伝統やチームカラーを否定されたことに反発したサポーターたちを中心に設立された。

 

 一方、元アウストリア・ザルツブルクともいうべきレッドブル・ザルツブルクは、およそ強豪とは言い難かった母体を一気に強化し、欧州でも注目される存在にのし上がっていった。いまや世界最強FWとも言われるハーランドも、このクラブからキャリアを飛躍させた選手の一人である。

 

 以来、レッドブルはドイツに、ブラジルに、米国にと勢力を拡大していき、今年、ついに日本にも拠点を持つことになった。

 

 正直、彼らが大宮という場所、チームを選んだのには意外な気もした。レッドブル・サッカーチームの頂点に位置するといってもいいRBライプツィヒの例を、まず思い描いたからである。

 

 基本的にはチームに企業名を冠することを禁じているブンデスリーガにあって、レッドブルは「芝生球技」なる強引な造語でチーム名にRBの二文字をねじ込んだ。当然、世間一般からの反発は相当なもので、彼らはブンデスリーガ屈指の嫌われ者にもなったわけだが、反面、地元ライプツィヒでは熱狂的に受け入れられた。経済的に厳しい状況に置かれている旧東ドイツ圏のライプツィヒでは、こんなことでも起きない限り、旧西ドイツ地域のクラブに脅威を与える存在は、誕生し得なかったからである。

 

 サイバーエージェントが町田の経営に乗り出した時も、少なからずサポーターとの衝突はあった。大宮とて、なんらかのトラブルは起こりうるし、どんなチーム名、チームカラーになるにせよ、他チームから警戒される存在になることも間違いない。そんなとき、支えになるのは地元からの圧倒的な指示。だとすれば、首都圏ではなく、地方の方がやりやすい、面白いのでは、と勝手に思い込んでいた。

 

 ただ、どんな狙いがあるにせよ、レッドブルの上陸によって、Jリーグが新たな次元に入るのは間違いない。企業名禁止、地域密着を打ち出したことで勢いに乗ったJリーグだったが、プロ野球が企業名を堅持しつつ、地域への密着も図ったことで、当初のアドバンテージは完全に失われた。アビスパとホークス、ベガルタとイーグルスの経済格差には、JリーグとNPBの現状がはっきりと映し出されている。

 

 レッドブルはバイクのモトGPでKTMというチームのスポンサーも務めており、ここではKTMのコーポレート・カラーでもあるオレンジを尊重している。おそらくアルディージャのオレンジも守られるのでは、とわたしはみるが、いずれにせよ、今回の買収によって、アルディージャがレッズを恒久的に凌駕する可能性を手にしたことは間違いない。チーム名がどうなるかはともかく、彼らはゴーストバスターズならぬ“REDS BUSTERS”となるための資格を獲得した。

 

 チーム名に企業名が含まれていても、地域密着の思想は有効だということをNPBは証明した。オーナーが外資であっても問題ないことが広まっていけば、日本のスポーツはまた新たな次元に突入することになる。大宮という街が、チームが、今後の日本にとって新たなモデルケースとなることだけは間違いない。

 

<この原稿は24年8月22日付「スポ-ツニッポン」に掲載されています>

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