レッドワーブラーズの出身と聞いて、すぐに「あそこか」とわかる人は、余程の野球ファンである。大概の人は「どこ、それ? アメリカの独立リーグ?」と戸惑うのではないか。

 日本初のプロ野球独立リーグ「四国・九州アイランドリーグ」に福岡レッドワーブラーズというチームがある。2008年に結成された若いチームだ。昨オフのドラフトで福岡ソフトバンクから6位指名を受け、入団した金無英は同リーグ「福岡レッドワーブラーズ」の出身である。
 その金の評判がいい。2月28日に行なわれた広島とのオープン戦では2回2安打無失点の好投でオープン戦初勝利をあげた。開幕1軍も見えてきた。
 昨年は独立リーグながらリリーフとして35試合に登板し、2勝0敗17セーブ、防御率0.41という好成績を残した。

 成長のきっかけはレッドワーブラーズ森山良二監督との出会い。大学(福岡経済大)時代に肩を痛めた金は再発を恐れ、練習に身が入らない時期が続いた。
「そんなことではプロにはなれないぞ!」
 一喝したのが森山だった。
 それを機に金の練習に取り組む姿勢がかわった。
「ケガさえなければ、というのは大きなカン違いだったんです。イチからやり直さないとダメなんだと、ようやく気がつきました」
 二人三脚でフォームを矯正した。テークバックを小さくし、なるべく前でボールをリリースするようにした。
「7割の力で投げればいい」
 森山は金にそう教えた。
 元々、大学時代からスピードボールには定評があった。ただフォームが安定せず、リリースの際に無駄な力が入り過ぎていた。プロで通算14勝している森山は、そこを見逃さなかった。
 このように、ちょっとフォームを矯正しただけで、ガラッとよくなるピッチャーはたくさんいる。独立リーグが存在していなかったら、そして森山との出会いがなかったら、金は埋もれたままになっていたかもしれない。

 韓国・釜山の出身。留学生として山口・早鞆高にやってきたのは今から7年前のことだ。日本語はマンガやテレビで覚えた。「高校2年生の頃には、他の生徒と同じように日本語で試験を受けるレベルになっていた」というのだから大したものだ。
 憧れのピッチャーはオリオールズの上原浩治。来日した頃、巨人のエースとして活躍する上原の姿に感銘を受けた。
「ストレートの伸び、切れ、フォークの落ち。その投球に感動しました。以来、上原さんのようなピッチャーになりたいと……」

 昨季、最下位に終わったソフトバンクが上位に進出するためには投手陣の整備が必須。金には早くもセットアッパーとしての期待がかかる。
「自分が1軍で使われるのなら中継ぎ」
 自らの役割もきっちり理解している。セットアッパーで実績をつくり、数年後にはクローザーを目指したい。玄界灘の向こうでは家族が初白星の朗報を待っている。

<この原稿は2009年3月22日号『サンデー毎日』に掲載されたものです>

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