1980年代から90年代にかけて、最強のプロ野球チームは西武だった。8度の日本一と13度のリーグ優勝を達成している。西武王朝を築き上げたのは森祇晶だ。チームを6度の日本一と8度のリーグ優勝に導いた。

 名将は一人の名投手をコーチとして重用した。“魔球王”として知られる、フォークボールのパイオニア杉下茂だ。DH制を採用するパ・リーグは“打高投低”。しかも当時は“飛ぶボール”の全盛時。強打者揃いのライバル球団を封じるにはフォークボールが必要と判断した森は杉下に技術継承を依頼したのである。

 その再現を狙っているのだろうか。オリックスは今春のキャンプで日米通算201勝の野茂英雄をテクニカルアドバイザーとして迎えた。野茂といえばフォークボールのスペシャリスト。握りは独特で親指と薬指でボールをグリップする。しかも手首を振らない。いわば固定式フォークだ。さらに野茂はフォークボールに回転をかけ、打者にストレートとの判別を困難にした。これは球界においてはノーベル賞級の発明だった。
 ドジャースでバッテリーを組んだキャッチャーのマイク・ピアザは「ノモのフォークボールはキュルキュルキュルキュルと音を立てながら落ちてくる。ナスティ(厄介な)ボールだ」と舌を巻いたものだ。近鉄時代の先輩にあたる大石大二郎監督が三顧の礼をもって迎え入れたのは、そうした理由による。

 早くも結果が出始めている。野茂からフォークの極意のみならずピッチングの基本やマウンドでの心構えについて教わった平野佳寿、小松聖、金子千尋、山本省吾らは明らかに自信を深めつつある。アレックス・カブレラ、グレッグ・ラロッカ、リック・セギノール・フェルナンデス、タフィー・ローズら外国人強打者を有するオリックスが投手陣の強化にも成功すれば、他球団にとっては脅威であろう。パ・リーグの台風の目となりそうだ。

<この原稿は2009年3月14日号『週刊ダイヤモンド』に掲載されたものです>

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