4月11日(土)、12日(日)、西武ドームで日本女子ソフトボール1部リーグが開幕した。例年は3会場にわかれて第1節(2連戦)が行なわれるが、今年は女子ソフトボールの五輪復帰に向けての活動の一環として、全12チームが西武ドームに集結。「開幕節」とし、2日間にわたって開幕戦6試合が行なわれた。4年ぶりに1部復帰を果たした伊予銀行は日立ソフトウェアと対戦。結果は0−22の完敗だった。果たしてチームは今後、どのように立て直しを図っていくのか。大國香奈子監督に敗戦で見えた課題と次戦以降のポイントについて訊いた。
(写真:待ちに待った開幕に気合いを入れる選手たち)

「熱くなりすぎてもいないし、落ち着いていていいと思いますね。チームとしては最高の状態です」
 ほとんどの選手が1部は未経験。観客の数も違えば、応援団の規模も違う。加えて人工芝の西武ドームでの開幕戦とくれば、緊張するなという方が無理であろう。だが、先の大國監督の言葉通り、試合前の選手たちの顔は皆、いい具合に引き締まっており、静かに闘志を燃やしているようだった。だが、相手は昨季3位、北京五輪代表が3人もいる強豪だ。試合が開始されるや否や、伊予銀行の選手たちは日立ペースにのまれていった。

 不足していた心の準備

 日立は打線が1番から7番まで左打者がズラリと並ぶ。「開幕戦には当然、サウスポーの清水美聡が上がるものと予想し、“清水対策”を講じてくるに違いない」。そう読んだ大國監督は、清水投手ではなく右のエース坂田那己子投手を先発に立てた。その坂田投手が初回、先頭打者をストレートの四球で出し、1死後には先制の2ランを浴びた。だが、1部経験者の坂田投手の表情からは不安の色は見えなかった。
「あれは完全に坂田の失投。5点くらいは覚悟していましたし、何てことはなかった。彼女もすぐに気持ちを切り替えていた」と指揮官のエースへの信頼も揺らぐことはなかった。

(写真:ピンチの場面、野手が坂田投手の元に集まる)
 しかし、その後も坂田投手の調子は上がらなかった。常にボールが先行し、四球かカウントを取りにいったボールを狙い打ちされた。原因は坂田投手の生命線とも言える左打者へのインコースのボールだった。いつもならストライクに取ってもらえるこの球が、ことごとくボールと判定されたのだ。ベンチからはボールが高いのか低いのかは見分けられるが、厳しい位置まではわからない。大國監督は何度も首をかしげた。

「坂田に聞いてもキャッチャーの藤原(未来)に聞いても、いつも通りのコースにきているというんです。ならば、考えられるのはキャッチングしかないと思いました。きちっとミットを止めて捕れば、いつも通りストライクが取れていたでしょう。しかし、藤原にそんな余裕はなかった。受けるだけで精一杯という感じでした」(大國監督)

 いつもはチーム一元気なキャッチャーの藤原選手だが、緊張からいつも通りのプレーができなかったからだろう、開幕戦では笑顔を見ることはできなかった。雰囲気にのまれ、地に足がついていない様子だったのは野手も同じだった。3回には無死満塁の場面で坂田投手が平凡なピッチャーゴロに打ち取るも、ボールが手につかずオールセーフとなり、日立に追加点を献上した。すると、このプレーに連鎖反応したかのようにミスが続出。全て打ち取っていた当たりだっただけに、いつも通りに守ることができていたら無失点で切り抜けられただろう。だがこの回、伊予銀行は一挙6点を失った。

「合宿の時から心の準備のために『今からどんどん緊張しておきなさい』と言ってあったんです。しかし、若い選手は1部の怖さを知らないので、そういう準備ができていなかったのでしょう。試合寸前になって不安になってしまったみたいですね。それが配球や守備に出てしまいました」(大國監督)

 川野選手に見た真のキャプテン像

 5回を終えて0−13。大國監督は6回から1年目の末次夏弥投手にスイッチした。2ランを打たれるなど、続けざまに3点を失ったところで今度はキャッチャーを同じく新人の池山あゆ美選手に代えた。ピンチにも動じる様子もなく常にポーカーフェイスの末次投手に、きびきびとした動きを見せる池山選手。得点は許したが、18歳バッテリーの出場によって試合のリズムがよくなっていった。

「末次は50球を超えたあたりから、体力不足で手投げになっていましたし、池山は配球面ではまだまだでした。しかし、彼女らが今持っている力は出し切れたと思います。本当によくやってくれましたよ」

 また、キャプテンの川野真代選手と副キャプテンの矢野輝美選手の1部経験者はほぼ練習通りのプレーができていた。なかでも大國監督が厚い信頼を寄せる川野選手はどんなに点差が離れても、最後までキャプテンとしてチームを鼓舞し続けた。攻守交替の際、落ち込んでいる様子の選手の背中をポンとたたき、笑顔でグラブタッチをして勢いよくセンターへと向かって行った川野選手。身長158センチとチームでも小柄な方の彼女だが、その背中は誰よりも大きく見えた。
(写真:笑顔でチームを盛り上げる川野選手<右>)

「あれだけ大差をつけられた試合でも、川野は最後までキャプテンとして振る舞ってくれました。それを見て、『よし、チームも次に向けて切り替えられる』と確信することができたんです」と大國監督。試合後、川野選手と話し合うと、彼女は全く後ろ向きな発言はしなかったという。「緊張していて、自分たちの力が出せなかっただけ」。それは大國監督と同じ意見だった。

「試合後、選手たちのモチベーションは下がっていました。でも、私は力の差というのはそんなにないと思っています。あるのは経験とプライドの差です。逆に言えば、競って負けるよりも、あれだけとことんやられてよかったですよ。というのも、選手たちは少し油断していたところがあったと思うんです。『これだけやってきたんだから』ということが、自信ではなく、過信になっていた。昨年からずっと準備することの重要性を口を酸っぱくして言ってきましたが、選手たちの自分勝手な準備だったんです。そのことが開幕戦ではっきりとわかりましたから」(大國監督)

 現在、チームは次のトヨタ自動車、豊田自動織機との試合に向けて練習に励んでいる。両チームともに時速100キロ以上のボールを投げ込む米国人ピッチャーを擁する強豪だ。彼女らを攻略するには「打てる」「打てない」ではなく、「打たなければいけない」という強い意識が必要だと指揮官は言う。

「次の試合まではまだ時間はあります。スピードに慣れれば、バットに当てることはできるでしょう。転がせば、相手にプレッシャーをかけることができる。とにかく全員でつないでいきたいと思っています」

 スタートでいきなり1部の壁に弾き飛ばされた伊予銀行だが、彼女らの実力はこんなものではないはずだ。再トライの準備は着々と進んでいる。伊予銀行にとっての勝負はこれからが本番である。


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