7日、女子ソフトーボール1部リーグの前節が終了した。6勝を最低ラインに1部残留を目指し、前節で4勝を狙っていた伊予銀行だが、残念ながら2勝9敗という結果となった。内容的には勝てる試合もあった。いや、勝たなければならなかった。しかし、勝ち切ることができなかった。その要因はどこにあるのか。後節に向けての課題を大國香奈子監督に訊いた。
(写真:円陣を組み、大國監督の声に耳を傾ける選手たち)

 西武ドームでの開幕節、伊予銀行は日立ソフトウェアに0−22と完敗した。その後も豊田自動織機、トヨタ自動車、ルネサス高崎に連敗。うち3試合で完封負けを喫した。ようやくチームが軌道に乗り始めたのは、5試合目となった第2節の佐川急便戦だった。1点ビハインドで迎えた4回に打線が続き、一挙4点を挙げて逆転。結局、この大量点が試合を決め、待ちに待った今季初勝利を挙げた。第3節では負けを喫したものの、古豪の太陽誘電相手に12安打を放った。その後も打線は好調を維持し、1、2点差の接戦にもつれこむ試合が続いた。

 悔しいサヨナラ負け

 打撃の面では大國監督も自信を持っていた。
「しっかり準備しておけば、1部のピッチャーに対しても十分に勝負できる」
 開幕前の監督の言葉だ。それを実践するべく、昨年末から準備は着々と進められてきた。特に今年2月の九州での強化合宿では、連日厳しいトレーニングが行なわれ、選手たちは1部の投手に負けないパワーを身につけた。それはチームメイトである投手陣が一様に驚くほどの成長ぶりだった。その成果が今、はっきりと表れ始めたのだ。

 しかし、あと一歩のところで勝ち切ることができなかったことも、また事実である。Hondaに1点差で勝ち、2勝目を挙げた伊予銀行だったが、デンソーに3−5、シオノギ製薬には3−4でサヨナラ負けを喫した。特にシオノギ製薬戦は伊予銀行としては、絶対に勝たなければならない試合だった。

 初回、4番キャプテンの川野真代選手の3ランで幸先よいスタートを切ったものの、その後は追加点を奪うことができなかった。完全に流れを引き寄せられなかった伊予銀行はジャッジによる不運にも見舞わされた。4回、伊予銀行は1死満塁というピンチを迎えた。通常ならバックホームに備えて前進守備をしく場面だが、3点というリードを考え、大國監督は1点を献上してでもゲッツー狙いを指示した。果たして打球はセンターへ。ホームは間に合わないと見た川野選手は捕球と同時に三塁へ送球した。タイミング的にはアウトだと思ったが、審判はセーフとみなした。

「切り替えていきなさい」。大國監督は坂田那己子投手と藤原未来選手のバッテリーにそう告げたが、踏ん張りきることができなかった。坂田投手は次打者をストレートの四球で出し、再び満塁としてしまう。ここでシオノギ製薬が満を持して送った代打の切り札に、2点タイムリーを打たれ、同点とされてしまった。

 それでも大國監督は「まだ同点。勝負はこれから」と焦ってはいなかった。最終回、勝ち越しのチャンスが訪れた。安打と四死球で1死満塁とした伊予銀行は、先制アーチを放った川野選手を打席に迎えた。川野選手はセオリー通り、センターフライを打ち上げ、三塁走者の中田麻樹選手がタッチアップ。うまく回り込み、セーフかと思われたが、球審のコールは「アウト」。チャンスに得点できず、嫌な流れのまま入ったその裏、坂田投手は先頭の8番打者に2つ目の死球を許すと、9番打者には送りバントを決められて1死二塁に。1番打者にも四球を許すと、この試合最も当たっていた2番打者にあっさりとタイムリーを打たれてシオノギ製薬にサヨナラ負けを喫した。

 痛恨の同点弾

 シオノギ製薬戦と同様、試合の主導権を握りながら白星を逃したのが最終戦の戸田中央総合病院戦だ。戸田中央は昨季、順位こそ10位だったが、打撃には定評のあるチームだ。今季も3番・今泉早智選手、5番・吉田真由美選手が打率でベスト5に入っている。4番・内田千恵美選手は昨季、新人賞に輝いた強打者だ。初回、坂田投手はそのクリーンアップに3連打を浴び、早くも先取点を奪われた。しかし、そのままズルズル引きずることなく最少失点で切り抜けると、2、3回は三人で攻撃を終わらせる好投を見せた。

 中盤、伊予銀行が反撃に転じた。3回に2死一、三塁の場面で打撃絶好調の川野選手が走者一掃の2点タイムリー。頼れるキャプテンの一打で逆転に成功した伊予銀行は、さらに4回に相手エラーもあって2点を追加し、3点のリードを奪った。

 だが、回を追うごとに坂田投手は制球力を失い、ストライクとボールがはっきりしていった。それもそのはずだった。左のエース清水美聡投手が4月に故障で戦列を離れたこともあり、坂田投手はこの試合で9連投。しかも試合会場となった埼玉県はこの日、最高気温30度にまで達する猛暑に見舞われた。坂田投手の疲労がピークに達していることは誰の目からも明らかだった。

 しかし、大國監督に選択の余地はなかった。
「清水がケガで投げられず、末次(夏弥)も山田(莉恵)も新人。絶対に勝たなければならない試合に、しかもプレッシャーのかかる場面で2人に投げさせるのはあまりにも酷。この試合はもうエースの坂田に委ねるしなかったんです」 
 5回、制球が定まらない坂田投手は戸田中央打線の猛攻にあい、一挙3点を失って同点とされた。そして6回にも押し出し死球などで2失点。伊予銀行は土壇場で2点のビハインドを負った。

 だが、選手たちに諦める気配は全くなかった。7回、この試合当たっていた中森菜摘選手のソロホームランで1点を返した。
「それまでの打席を見ていて、中森は相手投手のボールにタイミングが合っていると思いました。だから体を開かずにフライを打つつもりで思いっきり打つようにと言ったんです。でも、まさかホームランになるとは……。後で本人に聞いたら、とにかく開かないようにすることだけを考えてバットを振ったようです」
(写真:値千金の一発を放った中森選手)

 この一打で伊予銀行打線が息を吹き返した。川野選手、矢野選手とベテラン勢が連打でチャンスをつくると、2死から2年目の若手捕手・藤原が四球を選んで満塁とした。一打逆転のチャンスに、大國監督は2年目の相原冴子選手を代打に送った。相原選手といえば、大國監督が「将来の4番候補」と期待を寄せる選手の一人だ。だが、3月にヒザを手術した彼女は、今季は一度も出場していなかった。

「5節には代打で使うかもしれないから、しっかりと準備しておきなさい」
 順調に回復の様子を見せていた相原選手に大國監督はそう告げていたという。それでも最終回、しかも1点ビハインドで2死満塁という場面に初打席の相原選手を代打に送ることに迷いがなかったわけではなかった。「しかし」と大國監督はその理由を次のように述べた。

「この場面で相原を出すのは、少しかわいそうかなという気持ちもありましたが、昨季も彼女は代打で結果を残している。そういう何かをもっている選手だと思ったので」
 果たして、相原選手が1−3からの低めのボールを思い切って叩くと、打球は一塁手の頭上後方にポトリと落ちた。カバーに入った二塁手が打球の処理に手間どる間に2走者が返り、伊予銀行が再逆転した。

 その裏、坂田投手はわずか5球で2死を取った。勝利まであとアウト1つ。打席には先制タイムリーを打たれた5番の吉田選手を迎えた。それまで変化球主体に投げていたが、0−2からの3球目、バッテリーが選んだのはインコースのストレートだった。打球は勢いよくレフトスタンドへ飛び込んだ。起死回生の同点弾に、喜びを爆発させる戸田中央ベンチ。その向こう側では大國監督がガックリと肩を落としていた。
「あの場面(2死無走者)では強打者の5番に無理して勝負することはなかったんです。0−2とカウントも不利だったわけですから四球でも、次の6番で勝負すべきだったんですよ。藤原にはずっと言い続けてきたことだったんですけどね……」

 サヨナラを生んだ四球

 試合は延長に入った。両者ともに1点ずつを挙げて8−8で迎えた9回、1死三塁の場面で途中出場の明見茉紀選手に大國監督はスクイズを命じた。明見選手のバントは決して悪くなかった。しかし、三塁走者のスタートが少し遅れたことと、相手のフィールディングがよかったことで、勝ち越し点を奪うことができなかった。

 その裏、2死三塁から坂田投手はストライクが入らなくなり、2者連続でストレートの四球を出した。全てのベースが埋まり、サヨナラの場面。あわててマウンドに駆け寄った大國監督は「踏ん張りどころだよ」とエースを鼓舞した。
「坂田がほぼ限界にあることはわかっていました。しかし、彼女に任せるしかないわけですから、そう言うしかなかったんです」
 坂田投手は次打者をセカンドゴロに打ち取り、なんとかピンチを凌いだ。

 延長では無死二塁からスタートするタイブレーク方式がとられる。そのため、先頭打者には送りバントをさせるのが通例の戦略となっている。しかし10回表、大國監督は先頭の中森選手に強攻のサインを送った。当たっている彼女なら叩いて少なくとも進塁打にはするだろうと踏んだのだ。しかし、うまくタイミングを外された中森選手の打球はショートへ。二塁ランナーは一歩も動くことができなかった。続く川野選手はライトフライ、そして矢野輝美選手は空振り三振に倒れた。
「あの場面はやっぱり中森に送らせるべきでした。これは私のミスです」と大國監督。采配の難しさを垣間見たシーンだった。
(写真:厳しい試合を戦い抜いた坂田−藤原のバッテリー)

 そしてその裏、坂田投手にはもう抑える力は残っていなかった。先頭打者に送りバントを決められて1死三塁の場面で、打席には8番の新人・尾崎亜耶花選手を迎えた。大國監督は、「嫌なバッターにまわってきたな」と感じていた。実はこの8番打者に坂田投手は1打数1安打2四球1犠打と、一つもアウトを取れないばかりか、2度もホームを踏まれていた。果たして指揮官の嫌な予感は的中した。尾崎選手の打球は三遊間を抜け、二塁ランナーが一気にホームへ。伊予銀行は今季2度目のサヨナラ負けを喫した。

「試合後、坂田に聞くと本人としては特に苦手意識はなかったようです。でも、尾崎選手にしてみたら、1打席目でヒットを打った後、2打席連続で四球だったわけですから、自分を嫌がっていると感じていたと思います。そのことが最後のサヨナラヒットにつながったのでしょう」と大國監督。1球、1打席の積み重ねが勝敗を分ける。そんなソフトボールの奥深さが見てとれる試合となった。

 後節は9月5日からスタートする。それまでに克服すべき課題は大きく分けて2点だ。
「まずはバッテリー。試合では打者や流れによって、勝負すべき時とそうでない時とがある。そのポイントを判断していくことが必要です。もう1点は守備です。前節では後逸したり、ボールをしっかりと掴めていないまま送球したりと、慌てる場面がいくつもありました。それではワンヒット、1点で止められるところを逆に余計なヒット、点数を与えてしまいます。練習と同じように試合でも冷静にプレーすること。これらを後節までに克服したいと思っています」(大國監督)

 8月には国民体育大会(国体)の四国予選がある。まずはそこでどんな試合を見せてくれるのか。昨年は初戦で敗退し、5年間守り続けてきた四国代表の座を逃してしまった伊予銀行。それだけに選手たちもリベンジへの思いは強いはずだ。とはいえ、決して勝ち抜くことは容易ではない。初戦の相手は現在、2部で開幕から無傷の9連勝と絶好調の徳島代表・大鵬薬品だ。果たして、2年ぶりに国体出場を決めることができるのか。後節に結びつく重要な試合となるだけに、注目したい。


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