今年も女子高生の熱い夏が愛媛にやってきた。8月14日から3日間、愛媛県伊予市を会場に開かれたビーチバレージャパン女子ジュニア選手権大会(愛称「マドンナカップ」)。今回は参加49チームが灼熱の太陽の下、白い砂浜の上で熱戦を繰り広げた。
(写真:観客も多数詰め掛け、選手たちのプレーに声援を送った)
 1997年にスタートしたこの大会の目的は「将来のオリンピック選手の育成」だ。96年のアトランタ五輪後、ビーチバレーに転向した佐伯美香さんの活動をサポートしていたダイキが中心となり、ジュニア層の実力向上を目指すために大会を立ち上げた。とはいえ当時はビーチバレーの認知度はまだまだ高くない時代。大会を開催できるような環境は整っておらず、第2回まではテニスコートに大量の砂を入れて試合を行った。現在は伊予市の五色姫海浜公園にある専用コートで実施している。

「高校生のビーチバレー大会といってもピンと来ない人が多かった。最初はこちらからバレーボール部のある高校にお願いして、選手を出してもらっていたようです」
 マドンナカップ実行委員会事務局の大野健さんは、そう語る。日頃は地元テレビ局で営業の仕事をしている大野さんがマドンナカップに向けて動き始めるのは、まだ海辺の寒い春から。まずは大会の協賛集めに奔走する。他にも参加チームの受付、パンフレットの作成、トーナメントボートの準備……開催が近づくにつれて、さまざまな業務をスタッフとともにこなす。

 とはいえ大会がスタートした頃は、運営する側も手探り状態だった。よりよい大会にするため、大野さんは日本のみならず海外に視察に行った。
「ダイキさんと一緒に、佐伯さんの出場する大会や合宿に連れて行ってもらったんです。韓国、ロサンゼルス、グァム……。そこでいいと感じたアイデアは採用させてもらっています」
 観客席をコートのすぐ近くに設置したのも、そのひとつ。すぐ目の前で選手たちがトスやアタックを繰り広げる光景は観る者を引き込む。海水浴の途中でのぞきに来た観客が、その臨場感に魅了され、試合を最後まで観戦することも少なくない。さらには選手登場時にMCやBGMで盛り上げるなど、演出面でも工夫をこらしている。

 2000年、シドニー五輪で佐伯−高橋有紀子組が4位入賞を果たし、国内のビーチバレー人気は高まりをみせる。2002年には男子ジュニアの大会も大阪で開催されるようになり、ビーチバレーが徐々に高校にも浸透していった。
「共栄学園(東京)や西陵(愛知)といったバレーボールの強豪校が参加するようになりました。春高、インターハイ、国体に加えてマドンナカップで4冠を目指すという高校も出てくるようになったんです」(大野さん)

 現役時代はダイキヒメッツに所属し、アテネ五輪にも出場した徳野涼子さん(日本ビーチ文化振興協会理事)によると、近年は高校の敷地内に専用コートを設け、夏場はビーチバレーに取り組むところも増えてきたという。
「レシーブやトス、スパイクの基本はインドアもビーチバレーも一緒。ただ、ビーチバレーのほうが砂浜なので、より丁寧にプレーしないと狙い通りには打てない。この経験はインドアにも還元できると思います」
 徳野さんは高校生にはインドアもビーチバレーも両方経験してほしいと語る。それが両競技の底上げにつながり、優秀なバレーボーラー、ビーチバレーボーラーが誕生する素地になる。

 そして今年のマドンナカップは、この年代のビーチバレーレベルが高まっていることを実感する大会になった。
「これまでは相手からのボールをワンで返すプレーが目立っていました。最近はレシーブ、トス、アタックとしっかり攻撃を組み立てられるチームが増えてきましたね。ビーチバレーらしくなってきました」
 現地でテレビ解説も務めた徳野さんは、こう大会を振り返る。優勝した淡路三原(兵庫)の福田千奈美−杉本佳奈美組は、ユース代表経験もある山本成美−中野志穂組(京都・福知山成美)を2−0のストレートで下した。福田、杉本ともに身長は160センチ台。172センチの山本を擁する相手ペアとは高さの面でハンデがあった。

 しかし、3年連続出場となる2人は多彩な攻撃で相手を翻弄する。高い打点からネット際、ライン際に落としたり、フワッと浮かせてエンドラインいっぱいを狙ったり、と空いたスペースを巧みに突いてポイントを重ねた。
「彼女たちは1年生の時から、この大会に出ているのですが、普段はバレーボール部に所属しているだけあってレシーブなどの基本はしっかりしていました。ただ、攻撃に課題があったんです。でも、今回は経験を積んで、ビーチバレーをよく勉強していた印象があります」

 ポイントの獲り方に磨きをかけた福田−杉本組の優勝は、裏を返せば彼女たちの年代が攻撃面で向上の余地があることを示している。
「インドアだと背の低い選手は、リベロとして守りでしか活躍できない。でもビーチバレーでは、背が小さくても攻撃参加が求められます。逆にいえば、そこにビーチバレーの楽しさがある。ポイントが入るからトスも練習するし、レシーブも頑張るようになる。攻撃の重要性をもっとビーチバレー経験者が伝える必要があるでしょうね」
 そう語る徳野さんは今大会前、地元・愛媛の今治北のペアの指導に足を運んだ。残念ながら上位進出はならなかったが、今後も全国各地の高校でアドバイスの機会が増えることを望んでいる。

「毎年、確実に全体のレベルは上がっています。でも、インドアとの兼ね合いもあるので、まだまだ現状は高校生の大会が少ない。理想はビーチバレーの指導者が増えて、全国にビーチバレーボール部ができることですね。そうすれば、もっと大会が増え、試合を通じて選手たちが成長できると思います」
 徳野さんは今後のビーチバレー界に期待を寄せる。実際、マドンナカップは若いビーチバレーボーラーを生み出し、ジュニア層の発展に寄与してきた。昨年、この大会を制した溝江明香選手もそのひとり。一時期、菅山かおる選手とペアを組んで注目を集めた彼女は、実力面でもロンドン五輪を狙える逸材だ。

「この大会をスタートした目的は“オリンピック選手の育成”ですからね。マドンナカップを経験した選手が世界の舞台で活躍してくれることを祈っています」
 事務局の大野さんは夢を語る。「将来的には、すべての都道府県から予選を勝ち抜いて代表が集まる真の全国大会に発展させたい」。その時、高校球児の聖地が甲子園であるように、高校女子ビーチバレー選手の聖地が伊予の砂浜になる。彼女たちの熱い夏は、また来年、愛媛にやってくる。

※なお、マドンナカップの模様は8月29日(土)15:00〜15:55、テレビ愛媛で放送されます(以降、フジテレビ系列局で順次放送予定)。

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(石田洋之)
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