8月23日、伊予銀行女子ソフトボール部は国民体育大会の四国予選に挑んだ。1回戦で徳島を7−2で破ると、決勝の香川戦は17−0と投打に圧倒し、大勝。2年ぶりの国体本戦の出場を決めた。ほっとするのも束の間、9月5日には、リーグ戦後節の開幕を控えている。前節では2勝にとどまった伊予銀行。果たして1部残留に向けて、後節はどのような戦いをするのか。チームの現状と後節の戦略ポイントを大國香奈子監督に訊いた。

 7月、伊予銀行は前節での反省を踏まえ、1週間の関東遠征に出た。遠征ではルネサステクノロジ高崎事業所と合同練習および練習試合を、そして太陽誘電、日立マクセルとも練習試合を行なった。
「前節で浮き彫りになった課題はバッテリーの配球の組み立てでした。それを実戦を通して修正することが、遠征の最大のポイントだったんです。正直言って、バッテリーのための遠征でした。おかげで、キャッチャーの藤原(未来)に少なからず成長の跡が見えたので、十分に意義はあったと思います」(大國監督)

 遠征でしっかりと前節の課題を修正した伊予銀行は、次に国体の四国予選への準備を始めた。その一環として行なわれたのが、中国・四川チームとの親善試合だ。実は大國監督が現役時代、共に汗を流したチームメイトが四川チームのコーチを務めている。そんな縁があって実施された試合だった。では、この試合は国体を控える伊予銀行にとって、どのような意味合いがあったのか。
「リーグ戦はどこに対してもデータがあり、そのうえで戦略が練られる。でも、国体ではそうはいきません。だからこそ、予選前に全くデータのない相手と対戦しておきたかった。それに、まだ一度も海外のチームと試合をしたことがない彼女らには、貴重な経験になると思ったんです」

 果たして四国予選の結果は――。1回戦の相手は2部の大鵬薬品(徳島代表)だった。大鵬薬品は2部とはいえ、前節は開幕から無傷の9連勝と圧倒的な強さで首位に立っていた。連勝街道まっしぐらのチームの大黒柱はエース鈴木碧だ。鈴木は全9試合を投げて9勝0敗、防御率0.57と完璧なピッチングでチームを牽引していた。大國監督もこの大鵬薬品の勢いに警戒心を募らせていた。

 ところが、大鵬薬品の先発はその鈴木ではなく、左の小澤芙美子だった。結果は7−2と伊予銀行が快勝。続いて行なわれた決勝戦では、1回戦で11もの大量得点を挙げた香川を相手に、17−0と大勝した。

 こうして昨年の雪辱を果たし、めでたく国体本戦の出場を決めた伊予銀行。リーグ戦に向けていい弾みとなったのではないか。しかし、大國監督からは意外な言葉が聞かれた。
「できれば、リーグ戦の前にこういう試合はやりたくなかった」
 確かに2試合とも伊予銀行の貫禄勝ちと言っていいだろう。だが、ワンサイドゲームは時にチームに気の緩みを生じさせる。ピッチングに精細さがなくなり、バッターは長打狙いの大振り……。野球同様、この競技にはよくあることだ。しかし、国内最高峰のリーグではそれは決して通用しない。そのことを肝に銘じて、選手たちは戦わなければならない。大國監督はそう言いたかったのだろう。

 さて、24日〜30日には最後の調整に行内合宿が行なわれた。今回は特にどこを強化するといったものではなく、ピッチング、バッティング、走塁などを再度チェックしたという。ケガ人もなく、チームの仕上がり具合は上々のようだ。

 前節は、4勝を目標に掲げていた伊予銀行だったが、結果は2勝9敗。1部残留のための最低ラインである6勝を達成するためには、後節で少なくとも4勝は挙げなければならない。そこで重要となるのが、スタートの第6節、デンソーと戸田中央総合病院の2試合だと大國監督は語る。
「まずは後節1試合目のデンソー戦。ここで自分たちのゲームのかたちをつくること。そして、2試合目の戸田中央総合病院は絶対に勝たなければならないゲームの一つです。この最初の第6節で1勝を挙げることができれば、あとの3勝は続いていくと思います。そのためにも大事なのは自分たちのスタイルである守り勝つことです」

 昨季までは相手に先行されると、野手のモチベーションが下がることも少なくなかった。そのため、自分たちが先に主導権を握ることができるかどうかが、勝敗のポイントとなっていた。だが、今年は違う。強打者が揃う1部のチームに、打たれるのも、失点するのも仕方がない。あとはどこまで最少失点に抑えるか。たとえ先行されても、接戦に持ち込めば、終盤で引っくり返せる打力が今の伊予銀行にはあるからだ。だからこそ、守備が大事なのである。

「昨季に比べたら、本当に粘り強いチームになってきている」と大國監督も大きな手応えを感じている。10月には国体もあり、厳しい日程が続く。いよいよ、これからが正念場である。「1部残留」に向けた伊予銀行の熱い戦いが再び始まろうとしている。


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