「日本はゴール前20メートルまではいい攻撃をするが、そこから怖さがない。全く失点する気がしなかった」。オランダのDFヨリス・マタイセンの試合後のコメントだ。オランダ人の率直な指摘どおり、日本代表の詰めの甘さは、目を覆うばかりだった。日本代表のこれまでの課題は、きっとこれからも課題でもあり続けるのだろう。
 5日のオランダ戦、前半は互角以上の戦いだった。しかし後半20分過ぎから足が止まり、立て続けに3失点を喫した。まるでドイツW杯でのオーストラリア戦のビデオテープを見ているようだった。
 サッカーは90分間で雌雄を決する競技である。「前半は通用した」と言っても何の自慢にもならない。野球で「5回まではオレたちのチームが勝っていた」と言っているようなものだ。

 岡田武史監督は「(前半のサッカーを)来年までに90分間持たせるようにしなければ世界で勝ち目はない」と語ったが、エンジン全開で90分間プレスをかけまくるのは至難の業だ。陸上競技で最も過酷といわれる400メートルの選手に、ゴール後「あと200メートル走れ」と言っているようなものだ。今から心肺機能を強化するトレーニングに取り組んだとして、果たして来年の夏までに間に合うのか。

 仮に万難を排して「90分間持たせる」サッカーをやりきったとしても、それは「負けないサッカー」の完成であって、W杯で勝ち点3を取れるサッカーではない。また勝ち点3を目指すサッカーでなければ、岡田監督がマニフェストに掲げる「ベスト4」は画餅に終わってしまう。
 それを考えればマタイセンの忠告どおり、ピース1枚のズレに神経過敏になるより、ゴール前20メートルからの攻撃の精度を上げた方が、むしろ「勝ち点3」に近づけるのではないか。

 ボクサーにたとえるならオランダはハードヒッターだった。少ない手数ながら力まかせにガードをこじ開け、的確なピンポイントブローで日本をKOした。残念ながらこんな芸当は日本にはできない。手数をかけて相手の懐、すなわち「ゴール前20メートル」に潜入し、そこからコンビネーションの妙で抜け出すしかない。ゴール前での無策をベンチの無力と見なすのは早計か。ガーナ戦で示すべきもの、それは「フィニッシュの見取り図」である。

<この原稿は09年9月9日付『スポーツニッポン』に掲載されています>
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