「明治以来の官僚主導の政治を政治主導に変えないといけない。そのために国民が自ら選択する勇気をお示しいただいた。強く感謝している」。308議席を獲得し、圧勝した衆院選後の記者会見で、民主党の鳩山由紀夫代表はこう語った。
 では「明治以来の官僚主導の政治」をつくったのはどこか。端的にいえば、これは薩摩であり長州であり土佐ということになる。明治維新を断行した、いわば幕末の「雄藩」だ。
 自らの先祖が構築した統治システムを破壊されるのには、きっと遺伝子レベルでの抵抗感があるのだろう。「雄藩」においては、地殻変動が起きたといわれる今回の選挙でも、鳩山代表いうところの「明治以来の官僚主導の政治」を継承する自民党の牙城は微震程度で済んだ。

 高知は3選挙区を全て独占、山口は4勝1敗、鹿児島も5選挙区中、民主党に議席を譲ったのは1つだけ。当初は「100議席割れ」も伝えられた自民党が、どうにか救急車を呼ぶ番号(119)の数を確保し、延命できたのは、これら「雄藩」の貢献によるところが大きい。議席が2ケタ台にまで落ち込めば「消滅」ともいわれていただけに、かろうじて瀬戸際で踏みとどまったということもできる。

 さてプロ野球の世界においても鹿児島、山口、高知は瀬戸際の仕事人、すなわちクローザーの産地である。
 まずは鹿児島。プロ野球史上5位の通算193セーブをあげている江夏豊がそうだ。生まれは大阪だが、母親は鹿児島の出。元々は中国の姓で薩摩藩主・島津斉彬の側近に江夏(こうか)十郎という人物がいた。江夏は由緒ある家柄の出身なのだ。
 続いて山口。真っ先に思い浮かぶのが“炎のストッパー”と呼ばれた津田恒実だ。脳腫瘍のため32歳で他界。太く短く。まるで維新の志士のような生涯だった。ロッテなどで活躍した河本育之の気風のいいピッチングも忘れられない。
 最後に高知。鹿取義隆、中西清起、現役では阪神の藤川球児。眼前には太平洋の荒波。船を漕ぎ出すには腹をくくるしかない。退路を断っての大勝負。坂本龍馬も、きっとそんな心境だったのだろう。

 こうした県民性とポジション適性が一切、無関係だと私には思えないのだ。どの程度、信憑性のある話かは別として……。

<この原稿は09年9月2日付『スポーツニッポン』に掲載されています>
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