ピッチングコーチ出身でチームを日本一に導いた監督といえば1990年代以降では98年の横浜・権藤博監督と埼玉西武・渡辺久信監督の2人しかいない。
「野球は8割方、投手力で決まる」と言われながら、ピッチャー出身者が監督として成功した例は少ない。

 プロ野球の歴史を振り返っても、三原脩、水原茂、川上哲治、鶴岡一人、上田利治、広岡達朗、森祇晶、古葉竹識、野村克也……。名監督と言われる人物は皆、内野手か捕手の出身である。
 ある捕手出身の監督はピッチャー出身者が監督として成功しない理由について「ピッチャーは自分のことしか考えていない者が多い。だからチーム全体を束ねるのには不向き。これからもピッチャー出身の名監督は出ないだろう」と語っていた。

 そんななか、三顧の礼をもって迎えられたのが横浜の新監督・尾花高夫である。
 尾花といえば自他ともに認める日本一のピッチングコーチ。ヤクルト、ダイエー、巨人のピッチングコーチとして7度のリーグ優勝と4度の日本一を誇る。
 毒舌で知られる「球界のご意見番」広岡達朗が唯一、褒めるピッチングコーチでもある。
<2005年、巨人の秋季キャンプに訪れて感心したのは、投手コーチに就任したばかりの尾花の教え方だった。(中略)
「いい球を投げたいだろう。じゃ、どうすればいい。一歩半ほど踏み出す足の幅を広げてみようか」(中略)
 戸惑いは隠せないが、尾花の「大丈夫。いい球が投げられる」という自信たっぷりの言葉が彼らの背中を押す。>(『野球再生』=集英社インターナショナル)

 横浜が尾花に白羽の矢を立てたのはイチにもニにも投手陣を立て直して欲しいと考えているからに他ならない。
 しかし、過去を見れば名投手コーチ、名指揮者に非ず――。
 尾花新監督にはぜひこのジンクスを破ってもらいたい。

<この原稿は2009年12月7日号『週刊大衆』に掲載されたものです>

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